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船体塗装の目的

 船体は白く塗装する。理由はサメ除けである。黒っぽい色だと、サメが水中から見上げてアザラシに見えるらしい。アザラシと間違えられて、ホオジロザメに襲われてはかなわない。だから黒の正反対、白に塗る。
 もうひとつの目的は、ピンホールの穴埋めである。エポキシでは塞ぎ切れなかったピンホールを、塗膜によって塞ぐのだ。

ペンキの購入

 もう、コメリは使わない。コメリカードは捨てた。価格が中途半端に高い。店員が商品知識を持たない。そして、アフターサービスが悪い。だったら、コメリで買うメリットは何もない。
 高くてもいいから、ペンキはペンキ屋で買う。私が期待しているのは、餅は餅屋、プロらしいアドバイスだ。そう考えて、街のペンキ屋へ行った。
 用途を告げた。ボートの船体に塗る。色を塗るだけではなく、密閉性を高めたい。砂浜から出向するので、砂や小石で擦ったぐらいでは剥げない堅牢性が欲しい。港に係留するのではなく、浜に戻ったら船体を分割して車に載せ、ガレージで保管するので、船底専用塗料のような自己分解の防汚性は要らない。
 店主は困った。うちは建築系のペンキ屋だから、外壁を塗るにはこれがいいとか言えても、ボートのことは詳しくない。たまに漁師がブラっとやってきて、安いペンキを買ってゆく。だけど、ピンホールを塞ぐとか、海水に対して耐性があるとか、効果に責任が持てない。
 だったらいいよ、責任は求めない。失敗しても、授業料だと思って受け容れる。あなたがいいと思うのはどれ?
 そういうやり取りをして、堅牢性があるという2液性ウレタン塗料を注文した。その際、店主は私の目をのぞき込むように言った。高いよ? 私は覚悟の上だった。4kgセットにシンナーを付けて、合計1万5千円。そんなもんだろうと予想はしていた。その代りこれは、ホームセンターで売っているようなのとは訳が違う。プロ用だ。

ペンキ

空き缶の廃棄問題

 これは自治体によって違うようだが、私の住む市ではペンキの空き缶は家庭ごみには出せない。ということは、産業廃棄物になるのか。そこでペンキ屋の主人に訊いてみた。「市ではペンキ類の空き缶は引き取ってくれないのですが、使い切った後、空き缶をここへ持ってくれば引き取ってもらえますか?」 すると店主は次のように説明してくれた。
「そうして差し上げたいのは山々なんですが、それは違法になるんです。産業廃棄物の取り扱い資格がない者がそれを引き取ることは法律で禁じられています。ただ、これには抜け穴もあって、要するにお客様からお金をもらって引き受けたり、無料で引き取ったりすると違法なのですが、うちがお金を払って引き取ることはできるんです。つまり買えばそれは産業廃棄物ではなくなる。例えば1個10円とかで。商品として缶を買う。でもそれもなんだかなと思うので、空き缶の引き取りはお断りしているのです」
 なるほど、そういうことだったんだね。これがコメリで聞けなかった説明だ。おそらくコメリの店員も店長も、そういった事情を知っていながら私に説明しなかったのではなく、そんなことを知らないまま「本部がダメと言っているからダメだ」の一点張りだったのだろう。やっぱり餅は餅屋だ。店主はプロらしい真っ当な対応をしてくれたと思う。

湿気を恐れて塗装の延期

 買ったのは2液式のウレタン系塗料だ。その前にエポキシで硬化不良に悩まされていたので、私はナーバスになっていた。エポキシの硬化不良の原因は空気中の湿気に違いない。だからこのウレタン系の塗料による塗装も、できるだけ湿気を避けて施工したい。梅雨が明けるのを待った方がいいのではないか。
 昨年はずいぶん早く梅雨が明けたが、今年は平年並みか、それより少し遅れているようだ。7月中は雨が続いた。そこで塗装はすべてのパーツがそろってから最後にすることにして、先に機関ケースと駆動パネルの作製に取り掛かろう。

エポキシ硬化不良の原因

 ここで少し時系列をワープして、エポキシの硬化不良に関する最新の情報を記録しておこう。
 これを書いている現在、すでに機関ケースは完成し、駆動パネルの作製に取り掛かっている。それらにもエポキシを塗布する工程があった。
 8月に入って、梅雨が明け、猛暑が続いている。空中の湿気も気がかりだったが、もっと気がかりなことも起こった。ガレージの中はサウナのように熱い。汗が滝のように流れて、ぽたぽたとまだ硬化していないエポキシの塗布面にしたたり落ちた。あっ、まずい。とっさに刷毛で汗の滴を払いのけた。しかしそれはみすみす刷毛で汗の滴をエポキシ塗布面に擦り付ける結果となった。刷毛の跡が白く濁った。エポキシと汗が刷毛のひと擦りによって乳液状に混ざったのだ。そして次の瞬間には透明に戻った。ん? エポキシが一瞬で汗の水分を吸収した? それともエポキシが盛んに発している硬化反応熱によって汗が瞬時に蒸発した?
 翌日、恐るおそる触ってみると、何の問題もなく、エポキシはカチカチに固まっていた。このことから、次のような結論を得た。エポキシの硬化不良の原因は、空気中の湿気ではなく、気温の低さにあったのではないか? 気温の高い時期なら、多少の水分によって硬化が妨げられることはないのかもしれない。

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