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天板の作製

 船体の天板は、合板の弾性の限界まで、湾曲させる。私が乗ってもへこんだり折れたりしないように、だ。板は、湾曲させると、大きく強度が増す。トンネルは天井が丸いから強いのだ。生卵を縦につぶそうとして満身の力を込めても、びくともしない。同じ理屈だ。
 では、どうやって湾曲させるのか。一時、力を込めて湾曲させても、それではダメなのだ。その形状で接着できるように、湾曲を維持しなくてはならない。そこで船体に沿わせて湾曲させ、ガムテープで留めた。そうやって1週間ほど固定して、湾曲の癖をつけようと考えたのだ。それが「大惨事」を招いた。
 深夜、ガス爆発のような破裂音が鳴り響いた。「ボン!」。慌てて飛び起きた。そしてまたも「ボン!」。続いて「ボン、ボン!」。何が起こったのかすぐにはわからなかった。部屋の中を隈なく調べて、ようやくわかった。合板の弾性がガムテープの粘着力に勝ち、天板が弾けて復元したのだ。1ヶ所でそれが起こると、耐えきれなくなって、連鎖反応のように、次々と隣のガムテープが弾けたのだ。

破裂したガムテープ

 ガムテープではダメだ。もっと物理的な方法で固定しなければ。
 そこでガリバー旅行記の、小人の国に迷い込んだ旅人ガリバーのイメージで、ロープを使って括り付けることにした。

捕らわれたガリバー

 こうして天板を船体に押し付けつ、上部の湾曲に沿わせて、2週間置いた。その間、霧吹きで水を吹き付け、ドライヤーの熱風を当て、何とか合板の変形を固定しようとしたのだが、無駄だった。3mm厚の合板は、実に頑固に、湾曲を受け容れようとはしなかった。2週間経ってロープを解いたとき、天板にはほんのわずかな反りしかついていなかった。

エポキシの活用

 本当は天板にしっかりと湾曲の癖をつけてから、船体に接着したかったのだ。さもなくば、接着剤を塗り込み、湾曲させるために無理な力を加えつつ、手早く位置を合わせ、接着剤が垂れないように気を付けながら、そのまま一晩固定しておかなければならない。そんなに一度にあれもこれも、無理な芸当ができるだろうか? しかし、天板に湾曲の癖をつけることができなかった以上、それをやってのけなければならないのだ。
 さて、接着剤はエポキシ系の2液式のものを使う。ただし、天板を船体に接着するだけではない。船体の内側全体に塗り込む。すなわち、エポキシを接着剤としてだけではなく、FRP(繊維強化プラスティック)としても活用するのだ。この場合の「繊維」は、一般によく使われるガラスクロスではない。合板そのもの。つまり木材に由来するセルロース繊維をさす。エポキシを染み込ませた合板は、FRPのように強化されるはずなのだ。
 そのエポキシ樹脂には、コニシのボンドE206を使用する。ネット通販なら3キロセット(主剤2kg缶+硬化剤1kgボトル)で1万円弱。本来これは住宅の外壁のひび割れ等を修復するための土木建築用の樹脂製品なのだが、今回はそれを合板に含浸させて使用するのだ。船体の内側と外側に隈なく塗り込むのだから、大量に使うことになる。

ボンドE206

 このE206には特長がある。低粘度、耐水性、耐候性、そして高強度である。業務用であり、ホームセンターでは通常売っていない。コメリで客注として取り寄せてもらおうとしたら、通常は取扱いのない商品なので、発注単位である1ケース全部引き取ることを条件にされた。1ケースは3kgが4セット入りだ。合計12kgもの量、しかもネットで買うよりも割高で、4万円を超える金額だった。それでも私はコメリで買った。コメリのいいところは、使用後の空き缶を引き取って処分してくれるところだ。塗料類の空き缶は産業廃棄物とされて、市のごみ処理では引き取ってもらえないのだ。

塗り込みと接着

 事前にイメージトレーニングを繰り返した。ああして、こうして、その手順。全部を素早く55分間(ボンドE206の可使時間)でやってのけなければならない。少しでもトラブったらアウト。エポキシが漏れたり、逆に行き渡らなかったり。心配の種は尽きない。
 休日の朝、ヒラスズキ釣りもそこそこに、ボウズで切り上げて帰宅し、意を決して作業を開始した。

塗り込み

 船体の4ブロックのそれぞれに対して、今回は内側にエポキシ1.5kgを使う。これで半分の6kgを消費する。残りの6kgは後日、船体の外側に使う。
 1.5kgのエポキシは、混合してみると、相当の量だ。刷毛で船体の内側、天板の裏面に塗布しても、大量に余る。それを船体にまんべんなく流し込み、天板で蓋をして、ガムテープでぐるぐる巻きにしたうえで、ロープで厳重に押さえつけた。

ガムテープとロープ

 その状態で、数分ごとに90°回転させ、エポキシ樹脂が船体内部に隈なく行き渡るようにする。転がすたびに船体の中でぼたぼたとエポキシが垂れる音がする。もう蓋をしてしまったので、中を見ることはできない。うまくいくように祈るしかない。それを延々4時間続けた。可使時間55分というのは、ゲル化し始めるのが55分後という意味だ。55分間で固まるという意味ではない。約4時間で垂れなくなり、8時間でほぼ固体となる。そして24時間後にカチカチのガラス質になるのである。
 1週間かかって、それを4本分、繰り返した。作業は思い通りにいかず、不具合が生じた。ほんのちょっとした隙間から、エポキシが漏れた。逆にエポキシが行き渡らず、接着が不十分で、天板がだらしなく口を開いている部分もあった。追加の作業でそれらの不具合を修復しつつ、なんとか4本の船体内側にエポキシを塗り込み、天板を接着することができた。

漏れ

 さ、次は船体の外側だ。

水平線
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