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駆動力の伝達経路

 ペダルを漕いだ動力を、いかにスクリュープロペラに伝えるか。これは設計の根幹をなす事柄だ。前回の失敗作では下の図のように設計した。

前回

 黒いのがシャフト、青いのがギア、そして赤いのはスクリュープロペラと舵だ。
 機関ケースの下にシャフトが伸びて、魚雷のような形状のものにつながっている。そこからシャフトは直角に折れ曲がり、その後一直線にスクリュープロペラにつながる。
 この設計の利点は、ギアの数が少なくて済むことだ。そして2カ所で介するギアのぞれぞれで増速される。ペダルの回転を下方に伝達するベベルギアは、ステンレス製でギア比は4:1。魚雷型のハウジング内で回転を真後ろに変換するベベルギアは、ナイロン製でギア比は2:1だった。いずれも手に入るギアの中で最もギア比の高いものを選んだのだ。その結果、ペダルの回転速度は8倍となってスクリュープロペラに伝わる。
 ギアの数をできる限り減らしたかったのは、ギアや軸受けでの摩擦によるパワーロスをできる限り抑えたかったからだ。それにパワーの伝達経路がシンプルなほど壊れにくいだろうという読みもあった。しかし結果は失敗だった。
 それに、この設計には明確な欠点もあった。機関ケースが、余計な突起のために、広い収納場所を必要とすることだ。分割して車の荷室に入れる際、魚雷型のハウジングが邪魔をして、本当にぎりぎりにしか収まらなかった。
 欠点はそれだけではない。水中に没した魚雷型ハウジングが水の抵抗を受け、船足の軽快さを幾分阻害した。もっとも、水の抵抗の大部分は船体によって生じたし、そもそも100kgを超える総重量が排水量を増して、がっかりするほど鈍重な船足となったのではあるが。
 今やはっきりしている。すべてのパーツをコンパクトに、軽く作るべきだ。そして気にすべきはギアの抵抗ではなく、水の抵抗だ。そこでギアによる駆動力の伝達経路を見直し、下図のような設計にする。

今回

 こうすることによって、水中に没する魚雷型ハウジングは要らなくなる。機関ケースをクルマの荷室に積みやすくなるし、機関ケースの重量が減る。そして水の抵抗も減る。
 反面、シャフトの回転の伝達経路は複雑化し、ギアの数が増える。その分パワーのロスがあると思われるが、それは最重要のことではない。最重要のことは軽く作ることだ。

その他の見直し点 ギア

 ペダルと直結するベベルギアは、今回はステンレス製をやめ、ナイロン製にする。
 前回ステンレス製を使ったのは、ステンレスギアはギア比の最高が4:1までラインアップされていた一方、ナイロン製では最高2:1だったからというのがひとつ。もうひとつは、ステンレス製の方が耐久性があるだろうと思ったからだ。
 しかし耐久性に関しては、出航後20分で壊れるようなものに、ギアだけ何10年ももつ物を使ってもまったく意味がなかった。次のもどうせすぐに壊れるとは思っていないが、ことさら耐久性を求める必要もあるまい。
 ナイロン製のべべルギアは2:1のものまでしか手に入らないから、もう1カ所で増速する必要がある。スパーギアなら最高で2.5:1のギア比のものが手に入る。そこで2×2.5×2=10倍速の増速とすることにした。
 スクリュープロペラ直前の、最後のギアは1:1だ。ここは水中に没する部分なので、増速することよりも、水の抵抗を少なくするために、ギアの大きさを抑えなければならないからだ。

その他の見直し点 軸受け

 今回はボールベアリングは使わない。前回はクランクのシャフトを受けるのにボールベアリングを使ったがために、錆びを恐れて、機関ケースの密閉性を高めようとしたのだ。そのために2枚の板を、隙間を設けて貼り合わせた構造にし、その隙間の中にシャフトの軸受けを納めた。
 今回はボールベアリングを使用しないし、おまけにナイロン製のギアを使うので、防水性はまったく必要ない。すると1枚板を使う必要はない。シャフトの支柱が立ってさえいればいい。でもそれだと見栄えが悪いから、いっそ合板で覆うか? いや、それさえもやめて、ギアむき出しでいい。もし壊れるようなことがあった場合に、どこが損傷を受けたのか、容易に見えるようにしておきたい。
 ボールベアリングは使わないと決めたが、かといって前回に使ったナイロン製車輪の軸受け部を切り出すなどというようなこともしない。素直に樹脂製のブッシュを買う。オイルレスブッシュと言って、樹脂の中に潤滑剤が練り込まれているようで、注油なしで使えるという代物だ。そのかわり、数多く買うと高くつく。

その他の見直し点 パンタグラフ構造の廃止

 前回は、駆動パネルをパンタグラフ構造で支えた。これはいわばサスペンションであり、陸の上で、あるいは浅瀬で、船体よりも下に位置するスクリュープロペラと舵を、保護するためのものだった。

パンタグラフ

 機構が複雑となり自重も増すのに、なぜこんなものが必要だったのか? それは100kgものボートの自重が、スクリュープロペラや舵を押しつぶすからである。
 しかし今回のボートは、おそらく自重は30kg程度になると考えている。このような複雑なものは要らないだろう。駆動パネルは船体に固定してしまえばいい。そうすれば、シャフトにユニバーサルジョイントを備える必要もなくなる。

 さあ、設計は決まった。これで進めていこう!

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