完成した機関ケース
設計通りに、機関ケースを作製した。これを機関ケースと呼ぶのは、推進系と操舵系の動力(すなわち私の人力)の入力を、すべてこのパーツの中で行うからだ。そして双方ともシャフトの回転という形で、後方の駆動パネルに向け、出力される。
その際、シャフトの回転が、推進系は10倍に増速され、操舵系は4分の1に減速される。
ギアの取り回し
この機関ケースには、いくつかのギアが配置され、回転方向と回転速度を転換している。下の写真は機関ケースに内蔵したギアと、駆動パネルに内蔵する予定のギア、すべてが写っている。機関ケースには4組、駆動パネルには3組、全部で7組14個のギアを使用する。
このボートにはさまざまな原材料を使っているが、ギアは最も高価なパーツだ。
シャフトの固定方法改善 その1
前作の失敗は、シャフトの固定方法にあった。接着剤による固定は、強固さが足りず、シャフトの空回りを発生させた。そこで今回は、絶対に空回りしないようなシャフトの固定方法採用する。
シャフトの固定には、ペダルのクランク部のシャフト同士を固定する部分と、シャフトとギアを固定する部分の、2種類がある。そのうち、まずはクランクの作製について述べる。
ペダルクランクは、中心部のメインギアの回転軸となるシャフトを中心に、直交する左右のシャフトの連結を経て、ペダルの回転軸となるシャフトに至る。それぞれを絶対に空回りしない方法で固定するにはどうすればいいのか。
自転車では、その問題は、中心のスプロケットを回転させるシャフト断面を四角くすることによって、解決している。したがってクランクの穴も四角で、空回りすることがない。しかし私にはそのような加工は無理だ。シャフトの断面を四角くすることはできても、四角い穴を開けることができない。
そこで、クロスピンを用いることにした。すべてのシャフトにクロスピンを貫通させ、糸で縛ったうえで、エポキシ接着剤で固めた。これによって、クロスピンの強度を超える力が加わらない限り、絶対に空回りしない。
シャフトの固定方法改善 その2
次に、シャフトとギアの固定について述べる。同じくクロスピンを用いるのだが、大きなギアと小さなギアとで、その工程に少し違いがある。
大きなギアは、ギアにその中心を貫通する穴を開けるのが難しいので、底面にクロスピンが嵌合する溝を掘り、そこにクロスピン付きのシャフトを差し込むことにした。溝の掘り方は、ビットを使うのではなく、ガスバーナーで焼いたクロスピンを押し付け、熱で溶かす方法を用いた。
このままではギアが軸方向にスライドするので、ワッシャをカバーに使って、固定する。
小さなギアは、シャフトにギアを取り付け、もろともドリルで穴を貫通させ、ピンを埋め込む。
こうして、シャフトとギアも、クロスピンを破壊するほどの力が加わらない限り、絶対に空回りのないように固定された。
クロスピン方式の難点とその克服
金属にドリルで穴を開けることは、この数年でずいぶん上達した。今ではスチールたわしのような削りかすが作れる。コツはドリルビットの角度の固定と、対象物にドリルの刃先を強く押し付け過ぎないことだ。
それでもシャフトにクロスピン用の穴を開けるのには難儀した。穴を開ける対象がステンレスの丸棒なので、ドリルの刃先が滑って逃げるのだ。センターポンチで窪みを打ち付けても、あまり効果がない。どうすればいいか。
会社の設備に、ずっしりと重い金属製のクランクがあるのを思い出した。太いシャフトに細いハンドルが埋め込んである。そして太いシャフトの穴の根元には、楕円形に削った跡がある。それがなぜなのか、今わかった。ドリルの刃先が逃げる円柱に垂直な穴を開けるのは難しいのだ。だから表面を少し削って平らにしてから穴を開けるのだ。
こうして私はまた新たなノウハウを身につけた。
軸受けの選定
メカの設計および製造上、残る問題点は、シャフトをどのようにして受けるか、だ。ボールベアリングがいいのか、それともブッシュがいいのか。
前回はステンレスのボールベアリングと、自作のナイロンブッシュを用いた。ボールベアリングは耐久性が期待できる一方、たいそう高価で、ステンレスとは言っても400系だから錆が心配だ。かたや自作のナイロン製ブッシュは、作成に大変な労力がかかるうえに、穴の寸法に十分な精度が出せない。
今回は安い樹脂製の既製品ブッシュを使ってみることにした。樹脂の中に潤滑剤が練り込まれていて、注油なしで使える。反面、樹脂の中に不純物があるわけだから、樹脂としての強度は弱い。その結果として摩耗に対してどれだけの耐久性があるのかわからないが、今回はそれを試してみようと思う。
ただし、1個数百円の安いものとはいえ、ギアの数は全部で14個。シャフトの2ヶ所で受けるとして、けっこうな数を使うことになるので、それなりの金額にはなる。
ステアリング・ホイールの形状
最後にステアリングホイールについて述べておこう。
前作では真円の、文字通りホイールを作った。苦労して作ったのだが、あれには欠点があった。横にしようが縦にしようが、形状は変わらない。真円だから収納性が悪い。
そこで今回はホイールではなく、ハンドルにした。
こうすれば、90度回転させて縦にすることにより、幅が小さくなって、収納性がよくなる。実際に使用する際は、横に戻して、ハンドルとして使う。バナナのような形状のハンドルは手になじみ、操作性は悪くない。
これで機関ケースは完成だ。