段差の除去
せっかく作ったらせん階段ではあるが、目的は傾斜角を作り出すことだから、段差は取り除き、なめらかな面に仕上げる。そのために段差を刃物とヤスリでで削り取る。
この作業、とんでもない重労働だった。効率よく削るために、まずはヤスリを自作した。金属のこぎりを10本束ねて、刃を線から面にした。それでごしごしやった。段差が小さくなった時点で、それ以降はノミを多用した。ノミの刃を立てたら、食い込んでどうにもならない。刃を寝かせてシャコシャコ削り、アルミの鰹節のような削りかすを大量に生んだ。
とにかく根気強くやるしかなかった。この作業には3週間かかった。
段差は除去できた。だけどでかいぞ、これ。いくら削っても、小さくはならんな。外周部には手を付けていないのだから、当たり前だが。巨大な蝶ネクタイ。こんなものを水中の抵抗の中で回すには、よほどの力が必要なのではないか?
しかし、どうだ、この曲線美。らせん階段の着眼点はうまくいったようだ。手に持って回してみると、はっきりと風が生じる。さらに薄く削って行こう。
しかし、その前に、ブレードの形状を決めなくてはならない。ブレードは、中央が厚くて、周辺部が薄い。ブレードの形状を変更しようとして、薄くした後から切断すると、その切断面は厚くなってしまう。だから最初に形状を作って、それから薄く削る方が効率的だ。
ブレードの形状
ブレードの原型たるらせん階段ができあがった時点で思った。「大きすぎないか、これ?」。水中での抵抗が気になった。そこで考えた。大きさは十分過ぎるぐらいなのだから、ブレードの中で働きの悪い非効率な部分を切り落とし、効率よく働くブレードに仕上げることが可能なのではないか? それでも十分なブレード面積が残るだろう。
そこで、次の図のように考えた。
上の図は、回転しているプロペラを止まっているように見なし、逆に水が回転しているように描いたものだ。
直径300mm、幅75mmのブレードが水中で回転するのだから、その回転速度がそれほど高速ではないにしても、当然大きく水をかき回し、遠心力が発生するはずだ。ブレードの働きによって水は直線ではなく、放射状もしくはらせん状に斜め後方に押しのけられ、ブレードはその反作用を受けてボートを前に進める。
その際、水を後方に押しやるエネルギーはボートの推力となるが、撹拌するためのエネルギーは無駄になる。無駄を全くなくすことは無理だが、できるだけ少なくすることは可能だろう。それが効率の良いプロペラだ。そのためにはブレードの中で働きの悪い部分を切り取ってしまえばいい。
それが上の図の赤い斜線の部分だ。ブレードの面を滑りながら後方に押しやられる水が、遠心力によってブレード面から滑り出て、乱流となって拡散する部分。この部分は削り取ってしまおう。
この考えが正しいのかどうかは、自信がない。それでもいい。この整形には、他に2つの意義がある。ブレードの外周部に傾斜をつけることによって、衝突時にブレードの角が当らず、ブレードのへりによって障害物を押し出すようにすること。そしてもうひとつは、単純な軽量化である。
この作業には2日を費やした。