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新ターゲットの照準

 夏、シイラを釣りたい。オフショアで。きっと楽しいに違いない。
 ショアからの釣りか、オフショアの釣りかということそのものに、私の中にはこだわりはない。私がオフショアの釣りをやめたのは、船頭にポイントまで連れて行ってもらって、そこで釣るのを物足りないと感じたからだ。それを簡単だとは言わない。腕の差が如実に出る。それでも、苦心惨憺のうえヒットを得て釣り上げたとしても、その喜びは無上ではない。そこに自由を感じない。
 しかし、自分で操船して、自分でポイントを探すのであれば、話は別だ。その場合でも、金を払ってボートを購入し、エレキ・モーターなりガソリン・エンジンなりの動力を使って、魚に対して圧倒的に有利なポジションで釣っても、心は躍らない。だから私はボートを自作する。そして動力は私自身、人力でいく。
 そのような構想は、もう何年も前からあった。10年前、都会の生活を捨て、せっかく海辺の町に移り住んだのだ。もっと海と交わりたいと思った。ただシイラだけでは、それを即座に行動に移す動機としては弱かった。沖のシイラより、まずはシャローのヒラマサだろう?

ピータースロード・スピリット78

 最近、中古屋で、面白いフライリールを買った。オリムピックのピータースロード・スピリット。小型のアンチリバースだ。7/8番のこのサイズで、アンチリバースに意味があるのかといぶかる向きもあろうが、私は思わず飛びついた。抑えがたい衝動があった。一目ぼれだった。このリールを使ってみたい。それに安かった。5千円。6万円のビリー・ペイトを買うぐらいならと、言い訳を考えた。
 秋が深まると、湾内のあちこちでボイルが発生する。無数のトウゴロウイワシが波間を跳んで逃げ始めたと思ったら、海面が広い範囲で激しく泡立つ。見ていてわくわくする光景だ。もっとも、それを釣ったところで40cmほどのイナダであり、何の感動も得られない。しかしそれがフライフィッシングだったら? しかもフライロッドをのびのび振るには窮屈なショアからの釣りではなくて、広い湾内をマイボートで縦横無尽にナブラを追い回す、自由な釣りだったら? そしてそのとき、ロッドにはこのピータースロードが装着されていたら? そう考えたら、決心がついた。よし、やろう。ボートを作るぞ。
 目標は沖のシイラと、湾内でのフライフィッシングだ。

可能性の検討

 ホームセンターで安く手に入る手軽な材料で、ボートを作る。主なものは、木材と発泡スチロールと紙と樹脂。船体はH型の双胴艇。スクリュー・プロペラを、ペダルをこいで回す。全長3m、車に積める分割式で、出船時にはビーチで組み立て、釣りを終えたら分解して車に積む。
 浮力材には発泡スチロールを使う。万が一、沖で船体が壊れても、発泡スチロールなら浸水せずに浮いていられる。40cm×40cm×300cmの四角柱を2本浮かべる。その体積は96万立法センチ。水の抵抗を極力減らすために形状をシェイプして、仮に体積が半分に減ったとしても、48万立法センチ。したがって自重および搭載重量が合計480kgまでなら、水に浮いていられる。海水は比重が高いから、さらに浮力があるはずだ。
 発泡スチロールの特性は、圧縮する力に対しては非常に強いが、引っ張る力に対してはめっぽう弱いことだ。したがって折れやすい。だから内骨格系と外骨格系を備えなければならない。まず木材で内骨格を作り、それを浮力材の発泡スチロールで厚く覆う。その表面に紙を貼って樹脂で固めて外骨格にする。そしてプロペラ、それを回すシャフト、ギア、ペダル、操舵系のパーツ、および私の体重とタックルを合わせて、480kg以下に収まるか? まず大丈夫だ。おそらくボートの自重が60kg、それに私の体重60kgを加えても120kgで収まるはずだ。このプロジェクトは十分に成り立つ。
 さあ、お絵描きの時間だ。この段階が一番楽しい。完成まで何年かかるのかな。そう簡単にはできやしない。だからこそ楽しいのだ。

自作人力艇完成予想図

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