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ギア比5.3:1への進化の背景 パーミングカップ化

 アンバサダー5500Cは、1980年代初頭に大きくモデルチェンジし、パーミングカップ化された。その頃、社名のロゴも“ABU”から“ABU garcia”となった。この時期にはまだ“Abu Garcia”の表記はされていなかったように思う。そして“Ambassadeur”もまだ“ambassadeur”ではなかったはずだ。

パーミングカップ

 パーミングカップ化された直後には、まだ旧式のダブルアクションのクラッチシステムが使用されており、ドラグもシングルディスクで、ドラグが滑った時のクリック音も残されていた。ギア比は従来と同じ4.7:1である。
 このときすでに、後のドラグのマルチディスク化が予定されていたのではないだろうか。その兆しが、ハンドル基部のポッコリとしたふくらみに読み取ることができる。このふくらみは、マルチディスク化されて分厚くなったドラグシステムを収めるためにこそ、不可欠なものだからだ。

 ただし、マルチディスクの前に、過渡的な“サンドイッチ方式”(勝手に私が命名)が一時的に存在する。上のパーミングカップモデルと、下の復刻モデルは、まさにその時期のものだ。
 以前にはギアの表側にのみ内蔵されていた革製のブレーキワッシャーが、裏側にも配置され、両側からギアを挟むようになったのである。おそらく、それによってドラグの性能を向上させようとしたのではないかと思う。その結果、クリックホイールがギアの厚みに収まり切らなくなってはみ出し、より大きなスペースを必要とするようになった。それがあのポッコリの直接的な理由である。そのスペースが、後にそのままマルチディスクにあてがわれたのだ。

クラッチのシングルアクション化

 次いで行われたのは、クラッチのシングルアクション化だと思う。その根拠は、私も1台所有している、1990年ごろの、ブルーグレーの復刻モデルだ。このモデルは、ドラグシステムは旧式だが、クラッチシステムには、まずはシングルアクション化され、後に徐々に現在のものへと進化する、その原型が採用されている。まだこの時代のシングルアクションは、ハンドルを回してのクラッチの解除にわずかな引っ掛かりを残しており、その後熟成された現行モデルほどの軽快さはない。

復刻版の内部

ウルトラキャストデザインとドラグのマルチディスク化

 順番からするとおそらく最後に、スプールとシャフトが分離するウルトラキャストデザインが採用されて、同時にドラグがマルチディスク化され、ギア比が5.3:1へと高められたのではないだろうか。なぜそう推測するかと言えば、スプールと分離するシャフトの直径が、従来の一体型よりも0.5mm細くなったのは、ギア比を高めるためにピニオンギアを小さくしても強度が落ちないように、ピニオンギアの穴の直径を小さくするためだったに違いないからである。
 こうしてアンバサダー5500Cは、旧型のギア比4.7:1から、現行モデルのギア比5.3:1へと、いくらか高速化されたのである。
 下の動画では、現行モデルを代表して、非パーミングカップのモデルを例にとっている。かつては特別な復刻版として販売された非パーミングカップモデルも、現在では通常の現行モデルとして販売が継続されるようになった。パーミングカップか否かは、もはや歴史的な進化の過程を表さず、ユーザーの好みによる選択となったのである。

 パーミングカップも、非パーミングカップも、メカの構成は共通だ。下の写真に見るとおり、シングルアクションのクラッチシステム、ギア比5.3:1でマルチディスクドラグを内蔵したメインギア、スプールとシャフトの分離、そしてローラーベアリングによる逆転防止が、その内容だ。

現行モデルの内部

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