旧型アンバサダー5500Cに吹き込む新たな命
細くて強いPEラインの出現が、リールの持つ潜在能力を、その大きさゆえの制約から解き放った。PEラインはナイロンモノフィラメントの約3倍の強度がある。言い換えれば、同じ強度のラインで比べれば、リールのラインキャパシティーを3倍に増やすことが可能となったのだ。とすると理屈の上では、リールの大きさを従来の3倍に活用することが可能になったと言えないだろうか? それは実証を挑む価値のある仮説である。
だからやる。愛機アンバサダー5500Cでヒラマサと対戦する。今までブリまでにしか使ってこなかったが、できないことはないはずだ。まずはヒラマサに立ち向かえるように、旧型5500Cをもう一度チューンし直す。目標はメーターオーバー。10キロ級を狙う。なにゆえにわざわざ両の掌の中にすっぽりと収まるような、こんな小さなリールで? 無謀だと思うだろうか? しかし私は釣果がすべてだと考えるタイプのアングラーではない。どんなタックルで、どのように釣ったのか、そのプロセスこそが大切だ。これから何年かかろうとも、それが可能だということを、私は証明する。それを達成した時こそ、私は愛機5500Cに新たな命を吹き込むことができたと思えるはずだ。
このリールが現役で製造販売されていた20世紀の遠い過去、5500Cは、バスやマス、パイク、サケ等を釣るのに使われてきた。海で使うと錆びるパーツがあったから、主として淡水で活躍したに違いない。ラインキャパシティーは20ポンドテストのナイロンラインが200m弱。したがって設計時に想定されていたリールへの負荷は、そのラインクラスのものだったろう。
それを海で使う、ましてやヒラマサに挑むとなると、錆びや腐食の問題に加えて、スピードと強度が問題になる。想定している使用ラインは、PE4号。その強さは50ポンドテストに相当する。アンバサダー5500Cのスプールにはそれが230m巻ける。ラインキャパシティーは、それでなんとかいけるだろう。しかしそのライン強度目一杯のファイトをすれば、このリールが設計されたラインクラスの2倍以上の負荷をかけることになる。明らかに設計の想定外だ。それに耐えうる強さを獲得するためには、トータルなチューニングが必要となる。
チューニングの着眼点
ベイトキャスティングリールの場合、もしそれがどんなに正しく真面目に設計されたものであっても、リールの強さはつまるところギアの強さが限界となる。なぜなら、ベイトキャスティングリールのドラグは、スピニングリールのそれとは違って、メインギアとピニオンギアの噛み合いを介するからだ。リールを巻くときはもちろん、ドラグが滑ってハンドルから手を離したとしても、ギアに負担がかかる構造になっている。したがって、ギアの強度を超えて、各部をいくら強化しても、意味がない。
ギアの強さは、すなわち歯の大きさを意味し、それはギアそのものの大きさによって制約を受ける。そのギアの大きさは、ハンドルシャフトとスプールシャフトの距離によって決まり、その枠内で、高ギア比のためにメインギアをできるだけ大きく、ピニオンギアをできるだけ小さくしようとするなら、歯の大きさの限界はいっそう狭まる。
したがってアンバサダー5500Cのポテンシャルは、後からどんなに手を加えようとも、生まれた姿、その大きさによって、あらかじめ限界が運命づけられている。しかし私は思う。現状のアンバサダー5500Cは、まだそのポテンシャルを十分に発揮させられてはおらず、かなりの余力を残しているのではないか? その余力を絞り出すようなチューニングがあるとすれば、それはどういったものなのか?
私が考えたそのメニューは以下のとおりだ。
(2)ドラグの強化とクリックの継承
(3)ハンドルのステンレス化
(4)カップの防錆処理
(5)遠心ブレーキの可変タービンブレーキへの置き換え
(6)メカプレートのステンレス化
(7)ラチェット機構の強化
(8)ハンドルブッシュのステンレス一体化
(9)フレームとフットの強化
これだけのことをすれば、私のアンバサダー5500Cは、もはやオリジナルのパーツをわずかしか残さないことになる。それが惜しいとは思わない。ソルトウォーターアングラーである私にとっては、これこそがアンバサダー5500Cの好ましい進化と思えるからだ。
このようなチューニングは、1980年代以前の旧型をベースにしてもアプローチできるし、現在も製造販売が続けられている新型をベースにしてもアプローチできる。のちに詳しく見るが、両者はそれぞれに異なる長所と短所を持ち合わせている。私はまずは、自分の長年の相棒である旧型5500Cをベースにする。そののちには、新型をベースにしたチューニングも試してみるつもりだ。
研究し、実践し、記録する
これから長期間にわたって、旧型アンバサダー5500Cのチューニングに取り組む。この取り組みは今思いついたものではなく、長年の研究と実践の結果、ようやく私の目に見えてきたものだ。その集大成と言っていい。
当サイトでは、研究し、実践し、記録することを、基本的なスタイルとする。その資料を、誰かがどこかで必要としていると想定している。間違いなくその中の1人は、遠い過去の自分自身だ。若い頃ににこのことを知っていれば、道に迷わず、もっと有意義な時間の使い方ができただろう。そう思えるように、今、道を切り開く。