ギアの互換性
新旧のアンバサダーのギアに互換性があるとは言っても、メインギアとピニオンギアをセットで考えなければならない。たとえば1970年代の旧型の5500Cに、現行の5500Cのメインギアだけを移植することはできないし、また、ピニオンギアだけを移植することもできない。しかし旧型5500Cに、現行モデルのメインギアとピニオンギアをセットでなら、移植することができる。
この互換性は、下図のように、アンバサダー5500Cの歴代のモデルで、スプールシャフトとハンドルシャフトの位置が変わっていないことによって保たれている。すなわち、両者の距離が不変であり、メインギアの半径とピニオンギアの半径の和が一定なのだ。
互換性による制約
この互換性の維持は、古くからのアンバサダーユーザーにパーツの供給とギア比の選択の幅をもたらしてくれる反面、アンバサダーの性能の限界をも決定づけている。すなわち、どんなにギア比を高めたくても、当然ながら、メインギアの大きさ(半径)を両シャフトの間隔よりも大きくはできない。そして、その枠内でメインギアを大きくするにしても、ピニオンギアを小さくするには限界があるということだ。それは下図を見ればわかる。
理屈の上では、ピニオンギアを無限に小さくしていけば、いくらでもギア比は高められる。しかし、それでは実用的な機械的強度が維持できない。あまりにも小さなピニオンギアは、ギアの歯が小さくなりすぎて、必要な強度が保てない。したがってギア比を高めるにも、ある一定のギア比で頭打ちとなる。一部の高速モデルに設定された6.3:1のギア比は、すでに限界値に近づいているか、もしかすると超えているかもしれない。
そう考えると、ギア比は高ければ高いほどよいとは言えない。あまりに高いギア比は、巻き取り力が落ちるだけでなく、機械的強度が落ちるからである。ドラグを締めこんで力任せのファイトをすれば、ギアが飛んでしまうかもしれない。
形状の差異
ギアに互換性があるとは言っても、そのまま組み込むことはできず、形状の違いに応じて多少の加工が必要になる。その形状の違いをよく理解しておかなければならない。
形状の違いは、設計の意図を反映している。その意図をくみ取ることによって、形状の違いそのものをよりよく理解することが可能になると同時に、どのように加工すれば組み込むことができるのか、見通しを立てることができる。
さらには、その上で、その加工によって機械的強度にどのような影響があるかを、考察しなければならない。
メインギアの形状は、シャフト穴の直径、ドラグワッシャーのスペース、裏面の形状に着目する必要がある。ピニオンギアなら、シャフト穴の直径、ヨーク溝の形状、スプールとの噛み合いの溝の形状に着目する必要がある。
そのそれぞれを、ギア比ごとに、これから詳しく見てゆこう。