筆の自作
次に、ガイドのラッピング部をコーティングする。コーティング剤というのは一種のニスのようなものだから、ドライモーターでロッドを回転させながら、筆で塗る。そのためには筆が大量に必要となる。ティップセクションとバットセクションは別々にやるから、最低2本必要だ。それぞれに二度塗り、三度塗りするとなれば、4本、6本と必要になる。それ以外にも、木製パーツへの樹脂含浸などにも、筆は使用する。
基本的に筆は使い捨てにする。溶剤で洗って再利用などということは、家庭ではできない。溶剤を台所の流しに捨てたりしたら、大変なことになりそうだ。だから絶対にやりたくない。
筆は買えば安いものでも100円程する。1回ごとに使い捨てとなると、その費用はばかにならない。そこで低コストで自作する。材料は細いナイロンモノフィラメントと割り箸である。動画では0.6号を使っているが、1号や2号でも全く問題はない。筆でコーティング剤を塗るのは、それほど微細な作業ではない。筆にべっちょりとつけて、回転しているロッドになすり付けるだけだ。
コーティング剤
コーティング剤は、ここ数年はマタギのオリジナル、「バーリーコート」を使用している。マタギはこれをエポキシと称して販売しているが、匂いから察するにウレタンではないかと思う。とは言っても、べつにエポキシの方が高級品というわけではないだろうから、マタギに悪意があるわけではないだろうし、もしかすると私が間違っているのかもしれない。いずれにしても、「バーリーコート」はとても使いやすくて、仕上がりもきれいなので、他を試してみるつもりもない。ずっとこれでいい。
ただしうまく使うにはコツがある。そのコツはマタギが同封している説明書に書いてある。公式には主剤と硬化剤を1:1に混ぜて使うことになっているのだが、実際には主剤:硬化剤の比率を100:95ぐらいにすると失敗が少ない、というのだ。今となっては私もその通りと思う。マタギの不親切のせいで試行錯誤を余儀なくされた後では。
マタギは体積比で1:1あるいは100:95とは書いてくれていなかった。あるいは、主剤と硬化剤は比重が大きく異なるということを注意してくれなかった。私は計量カップなど持っていないから、紙コップを秤に載せ、重量比で100:95に混ぜた。その結果、何度やっても硬化不良だった。ある時気づいた。硬化剤のボトルの方が異様に減りが早い。同量のボトルのなのになぜ? ようやく気付いた。もしかして主剤と硬化剤は比重が違うのか?
使い切った空のボトルの重量を測り、購入したばかりの新品の重量から引くと、内容物のみの重量が得られる。同じ100ccで、主剤は約115g、硬化剤は約95gだった。したがって体積比で1:1を実現しようと思ったら、重量比換算では115:95でなければならないのだ。マタギの勧めるとおり、少し主剤を多めにするなら、100:80ぐらい。重量比100:95では硬化剤が多すぎたのだ。そのことに気づいてからは、失敗はなくなった。そして多少主剤が多すぎても、ちゃんと硬化することを、経験で知った。だから私のバーリーコートは、今では逆に主剤の減りの方が断然早い。
ドライモーター、アルコールランプは必須
コーティングは一度に厚く塗ろうとせずに、二度か三度に分けるときれいにできるという解説が、さまざまな手引書に見受けられる。まったくその通りだ。特に、ラッピングの糸さばきに慣れないうちは、糸の繊維がばらけて、そこだけコーティング剤がつんと尖るので、カッターでその突起を削ってから二度目を塗ると、きれいに仕上がる。やがて慣れてくれば、一度の厚塗りもできるようになる。その際、ばらけた繊維はライターで軽く炙ると、あらかじめ除去できる。炙り過ぎてせっかく巻いた糸を切断してしまう失敗も生じるが。
いずれにしてもドライモーターは必須で、ロッドを回しながら硬化させなければ、必ず垂れる。一度手回しでやってみたことがあるが、4時間回し続けるのは大変だった。それは夏だったが、冬には気温が低いので、硬化時間はその2倍ぐらいかかる。8時間の手回しは苦痛以外の何ものでもない。それに、両手がふさがっていたのでは、次に述べるアルコールランプも使えない。だからドライモーターは必ず手に入れるべきだ。
コーティング剤の撹拌時に発生する泡を気にしたことがあった。コーティングが硬化した後、微細な気泡がたくさん残る。それを防ぐにはできるだけ泡立てずに撹拌しなければならない。そこでT字型の攪拌機を作り、液面下で回転させて空気を取り込まずに・・・というようなことをしたものだったが、アルコールランプを手に入れてからはそんな悩みはなくなった。ガイドのラッピング部に塗ったコーティング剤をアルコールランプの炎でさっと炙れば、サイダーの炭酸がはじけるような音を立てて気泡は消える。だから撹拌は盛大に泡立てながら丹念にやることができるようになった。私はことさら徹底的にかき混ぜる。すると大量の空気を含んでコーティング剤の粘度が下がり、小さなシャボン玉が液面から飛び立ってゆく。それでもアルコールランプの炎で、気泡はきれいに消える。その原理は、熱で液の粘度を下げ、表面張力を小さくさせるのだと思うが、ドライヤーでは風が生じ、ライターではすすが生じる。だからアルコールランプがベストということのようだ。
ついでながら、こんなことは経験してみないと予測もできないのだが、小バエがコーティング剤の刺激臭を好み、集まってくる。コーティングが硬化した時に、小バエが頭を突っ込んだ状態で捕えられているのを発見することがある。モーターを回している間は小バエを追い払わなければならない。
ぐるぐる巻きラッピングに対応するコーティング法
前ページで述べたように、私のガイドラッピングは特殊だ。ランダムなぐるぐる巻き。そのことによってコーティング剤のスレッドへの馴染みをよくしようという意図なのだが、問題が1つ発生する。それはコーティング剤硬化時の気泡問題だ。
その気泡の由来は、前述のコーティング剤の撹拌時に生じる泡とは違い、ランダムに巻かれた糸の隙間にもともとあった空気である。やっかいなことに、この空気はアルコールランプの熱で膨張し、炎で炙って気泡を除去しようとすればするほど、後からこんこんと湧いてくる。膨張と収縮を繰り返せば、やがてコーティング剤がラッピングの下層にまでしみわたって、気泡の発生は止まると思うのだが、そうなる前にコーティング剤の硬化が始まる。熱を加えることによって化学反応が促進され、ある時点を過ぎれば熱はコーティング剤の粘度を下げる方向には働かず、逆に硬化を速めて粘度を上げてしまうのだ。この時点ではもはや炙ってはいけない。歪な形で硬化させてしまうことになるからだ。
この問題を解決するには、コーティング剤の二度塗りが有効だ。一度目の塗りでコーティング剤をスレッドに染み込ませ、中から空気が漏れないように目止めをする。この段階では厚塗りはせずに、ラッピングの糸目が見える程度にとどめる。そして二度目の塗りで厚く仕上げるのだ。
下の写真が一度目の塗りだ。コーティング作業中はそんな余裕がないので、動画は撮影していない。
そして二度目で普通に仕上げる。そのタイミングは、一度目の塗りの硬化がまだ完全ではなく、もはや垂れはしないが、爪を立てればぐにゅっとへこむ程度の時期。完全に硬化すると、二度目の塗りをはじいてしまう。硬化の具合は、余ったコーティング剤を捨てずに取っておいて、それで確かめればよい。
二度目の塗りでは、一度目の塗りで目止めされているために、もはやアルコールランプの炎の熱によって膨張した空気がラッピングの隙間から出てこず、コーティング剤の撹拌によって生じた気泡が消えるだけだ。
次の写真が、二度目の塗りを終えたところ。なんとか仕上がっている。ラッピングスレッドの糸目は全く目立たない。しかしよく見れば気泡がつぶれた跡のあばただらけだし、内部にもまだ気泡が残っている。もっと熟練すればよりきれいにできるようになるだろう。今の時点ではここで我慢する。
次の写真は、コーティング部を拡大したもの。拡大しても、ランダムなぐるぐる巻きのラッピングは見ただけではまったくわからない。
次の写真は、まだこのやり方に熟練していなかったために、失敗して、コーティングが気泡だらけになってしまった過去の事例。おまけにコーティング剤をこんもりと盛り過ぎた。これは継ぎ目の保護のためのスレッドである。
とは言っても、実用上は何の問題もないのだから、「まあ、いいや」と本人が諦めればどうってことはない。過去のこのレベルと比べれば、現在はもう少し進歩はしている。