進化した点
できあがったロッドに名前を付ける。“SBT−11260”とする。
下の写真は、ひとつ前の世代の擬似オフセット(下)と、今回の“SBT−11260”(上)とを並べてみたものだ。ひと目見てすぐにオフセットの度合いが大きくなっていることに気付く。しかし今回の進化はそこではない。キャスト時の右手人差し指と中指の位置関係の改善である。それを実現するために、結果としてオフセットの度合いが大きくなったのだ。
積み残した課題
このロッドは虚飾を排した実用本位のデザインを心掛けた。飾り気はまったくない。しかしどんな製品にも、機能を追求すればするほど漂ってくる雰囲気というものがある。私が目指したデザインはそれである。
しかしこのロッドには失敗している個所がある。リールシート部だ。EVAのパイプを被せたことが、それによって何がやりたかったのか表現できていない。この部分のデザインはずっと悩んでいる。やがて答えを見つけるつもりだ。
個体ごとの模様の個性
今回は同じロッドを3本同時に作った。天然素材であるウォールナット材を使用しているので、トリガーグリップ部にはそれぞれ個性的な木目がある。実際、こんなに違いが出るのかと思うほど、それぞれ独自の表情をしている。その特徴により、写真上から順に“シマ”、“トラ”、“マーブル”と呼ぶ。この順番が、ロッド全体の出来の良さを表している。そこで最も美しく仕上がった“シマ”を販売用に、2番目の“トラ”を自分用に、3番目の“マーブル”をレンタル用にすることにした。
このような予想もできない木目模様が現れるのは、今回使用した根杢材だからこそであり、通常の木材ではもっと単純な木目にしかならないだろう。同時に、これは意図的なものでは決してないのだが、3本とも互いに形状が少しずつ異なる。それは手作業による誤差だ。例えば最もできのよい“シマ”に比べて、“トラ”は少し太く、“マーブル”は少し細い。もっと作業に熟練すれば、誤差は小さくなるはずだ。