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トリガーグリップ

 トリガーグリップはウォールナットのウッドブロックからの削り出しで、完全に手作りだが、かといって工芸的価値などまったくない。削って、磨いて、丹念に仕上げてあるものの、ノミの刃がちょっと深く入ってしまった跡が何ヶ所か残っている。それをなくすために磨き上げることは、敢えてしていない。それは、頭に描いた形状が損なわれるのを避けるためである。
 木の肌の感触を残すために、新たに樹脂含浸の手法を試みた。現時点では成功したと思っているが、その効果は10年、20年の年月を経て検証されるべきものだ。

トリガーグリップ

リールシート

 リールシートのEVAは、リールを装着する際にきつめにしてある。リールフットとリールシートが密着していると、がたつきがいっそうなくせるように思ってのことだ。しかし、きつすぎて、最初にリールを装着する際に苦労する。その後は、EVAがリールフットの形にへこむので、難なく装着できる。
 だから、今回完成した3本のSBT−11260には、3本ともこの部分を型押ししておいた。型押し用には愛用のアンバサダー5500Cを使った。他社のリールやレボだと、リールフットがぴったりと型にはまらないかもしれない。しかし時間が経てばEVAのへこみは回復するから、そのうち馴染んでくるはずだ。

リールシート部の型押し

EVAグリップの口輪

 EVAのグリップには口輪を装着してある。これは上から被せてあるのではなく、単に接着してあるだけだ。
 その役割は、EVAグリップを、ブランクに対して、より強固に接着することにある。口輪の内径はブランクの外径よりも若干大きくしてあり、その隙間にウレタン樹脂を流し込んである。ただし、それはまだ私が接着剤の扱いに熟練していなかった頃の名残であり、いまならそんなことをしなくても、十分強固にEVAグリップを接着することが可能だ。
 こういう細部のパーツも、手作りで作成するためには意外に時間を食う。だから、自作でなくても満足できるのであれば、市販のパーツで簡便に済ませる方がよい。私は完全オリジナルのタックルが好きだから、こんなところも自作にこだわっているだけだ。

口輪

ナットのスペーサー

 リールシート部にリールフットを押し込むのは、それでも骨が折れる。だから最終的にはナットを締めることによって、リールフットを奥のフードの中に押し込む。
 その際、パイプシートに切られたネジ部分の寸法が足りなくて、うまくナット側のフードにリールフットを噛ませることができない。そこで余ったウォールナット材でスペーサーを作って、リールシートのネジ部を延長してある。
 こんなことをしなくても済むように、この部分の処理方法を改善したいと思っている。

スペーサー

ジョイント

 ジョイントは印籠継だ。気に入ったブランクがたまたま印籠継だっただけで、意図して印籠継を選んだわけではない。私の好みはむしろ逆並継だ。
 印籠継は、ジョイント部が細くなるので、ロッドの抜き差しがしにくい。使用中に緩んだ時も、増し締めする際に、濡れた手だとよく滑る。だからついついガイドごと握ってロッドをねじり、ガイドのフレームを歪ませてしまいがちだ。だから今回はガイドをジョイント部から遠ざけ、ジョイントがガイド間隔の中央にくるようにした。

ジョイント

 ジョイントの補強にはとても気を遣う。
 昔、ケイロンという人気のシーバスロッドがあり、私はスピニングリールとの浮気を楽しむために、1本購入した。そのケイロンは逆並継だったが、わずかな使用で継ぎ目に亀裂が入り、緩くなった。私は購入した店舗にクレームを付けた。困った店主は「どんなロッドも継ぎ目は亀裂が入りますよ。だから、亀裂が入っても折れないように、糸を巻いて補強してあるんですから」と言った。私は納得がいかず、引き下がらなかった。新品に取り換えさせた。その新品も使い始めてすぐに亀裂が入った。私は「店主の言ったとおりだ。どんなロッドもここには亀裂が入るものなんだ」と思った。「あの店主に悪いことをした」とさえ思った。しかしその後、私があの店に行くことはなくなった。やがてケイロンも廃れた。
 その経験がベースとなって、私はロッドビルディングでは、継ぎ目の補強にはとても気を遣うようになった。補強の目的は、亀裂が入っても折れないようにするためではなく、そもそも亀裂が入らないようにするためだ。バット側も、ティップ側も、糸を何重にもぐるぐる巻きにして、締め上げる。そうするとブランク径はほんのわずかに縮むようだ。継ぎが5mmほど浅くなる。糸を巻いたことによってわずかに変形するぐらいなのだから、補強の効果はあるのだろうと思っている。

ガイドラッピングおよびコーティング

 工程紹介のページで詳しく述べたとおり、私は独自の考え方に基づき、少し特殊なやり方でガイドを取り付ける。毎日毎日これ1本のへヴィーデューティーなロッドなのだから、より頑丈な作りに仕上げたいからである。
 それと引き換えに、デメリットも生じる。フィールドで朝日を浴びて、ガイドのコーティング部が、まるでラメ入りのようにキラキラと輝く。それはコーティング時に消しきれなかった気泡である。それを許せるかどうかが、この方法でのラッピングおよびコーティングに対する評価の分かれ道だ。
 私は物事を教科書通りにやるのが嫌いな天邪鬼だから、この気泡の輝きを美しいと思う。

コーティング

水平線
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