最後にツール類を紹介して、ロッド“SBT−11260”にまつわる物語を終わる。
電動ドリル
ロッドビルディングするにも、リールの改造パーツを作製するにも、どんなことにも必要な最低限のツールが、この電動ドリルだ。“SBT−11260”の作製においては、まずもってトリガーグリップの貫通穴を開けるのに使用する。しかしそれだけではない。手持ちの簡易的な旋盤として使用し、ゴムのバットエンドやEVAグリップを削るのにも使える。
昔はリョービやマキタの製品が1万円以上したものだが、今は中国製のものが出回り、全体的に値が下がってきた。このような用途で使うのなら、3千円程度の安物で十分だ。とは言え、私の経験上、ホームセンターのプライベートブランドのものは粗悪品があるので避けた方がよい。箱から出して使い始めた途端、ポンと火花が散って、一瞬でダメになったことがある。お薦めは上の写真のBLACL&DECKERだ。この10年で5台ぐらい使いつぶしたが、値段が安い割に品質が良く、不良品はひとつもなかった。
この種のドリルには、充電式のものとコンセント式のものがあるが、屋外で作業するのでなければ、コンセント式のものが断然よい。合板に穴を開けたり、杉や松材にネジを打ったりするのとは異なり、硬木を相手に試行錯誤しながら長時間にわたって使用することになるので、充電式のものはすぐに電池が切れて使い物にならない。
上の写真のBLACL&DECKERは、出力90W、最大650回転/分のモデルだ。DIYにはこれぐらいのものがちょうどよい。というのは、あまり強力なものだと、恐ろしくて手持ちの作業ができない上に、騒音も大きくて家庭内での作業には向かないからだ。
出力90Wなら人間の筋力の方が勝るので、仮に指や衣服が巻き込まれても、大事には至らない。半面、トルクが弱すぎて、硬い木に大きくて深い穴を開けるには力不足となる。そこで、より強力なドリルも必要になってくる。それが下の写真のものだ。
同じBLACL&DECKERだが、ひと回り以上大きく、出力450W、最大2,800回転/分のモデルだ。高出力だからといって高くない。値段は先の90Wのものとほとんど変わらない。
こいつは極めて強力で、ウォールナット材の深い貫通穴も、ゴリゴリと開けてしまう。そのかわり、材料を万力でちゃんと固定して、踏ん張ってドリルを構えないと、ドリルが暴れて大変なことになってしまう。だから大は小を兼ねるとはいかない。ドリルは多用途タイプと強力タイプの両方が必要だ。
ドリル用固定装置
ドリルでまっすぐな穴を狙った位置に開けるのは難しい。なかなか思い通りにはいかない。そこで考えた。治具の助けを借りて、何とかうまくできないか。そのためのものが、下の写真の、自作の装置である。
確かにその効果はゼロではない。しかし理屈と現実は違う。頭に思い描いた通りにはいかないものだ。
うまくいかない原因は、木工用のドリルにある。金属用のドリルが先端に2枚の刃を持つのに対して、木工用のドリルの刃は1枚だ。柔らかな木材ならそれでいいかもしれないが、ウォールナット材は硬い。だからドリルの刃が1枚しかないと、力が均等にかからず、ぐりんぐりんとドリルが暴れる。それでぶれてまっすぐに穴が開かないのだ。
そこでいっそのこと金属用ドリルの刃を使ってみたらどうだろうかと企てている。このような工程の改善には、今後、じっくりと取り組む必要がある。
簡易万力
のこぎりで木材を切断するのも、簡単なようで、実際には奥の深い作業だ。まっすぐに切るのが難しいうえに、垂直や水平が保てない。どうしてものこぎりの歯が逃げてゆく。せめて両手でのこぎりを引くようにしなければダメだ。そのためには片手で材料を抑えるのではなく、万力で固定して、両手を自由にしなければならない。
そのように考えて、簡易的な万力を作った。
この万力には予想外の効果があった。材料の固定をこいつに任せて、両手でのこぎりを構えることができるため、腕でのこぎりを引くのでさえなく、上半身全体を大きくスライドさせて、腰でのこぎりが引けるようになった。これはとても楽だ。そして作業時間を短縮できる。
木工旋盤
このツールの必要性はずいぶん昔から感じていた。木には木目があり、削れやすい方向と削れにくい方向がある。だから電動ドリルに装着して、手持ち作業でヤスリを当てると、楕円形に削れてしまう。
これが均質な金属素材だと、そのような手持ち作業でも、限りなく真円に近くなる。それでも精度を要する場合には、ドリルを2台使って、素材とグラインダーの両方を回転させ、回転軸を直角に交差させて削る。そうしなければ、ドリルの回転ブレやヤスリの振動によって、形状が微妙に真円から逸れる。ましてや木材だとその弊害は一層顕著になる。2台のドリルを使っても、その弊害は除去できない。
だからヤスリではだめなのだ。刃を用いなければならない。そこで木工旋盤が必要になるのだ。
上の写真のものは、回転の動力に電動ドリルを使った、簡易的なものである。刃にはノミを使う。これによって木製のパイプが簡単に作れるようになった。具体的なパーツでいうと、EVAグリップのキャップである。
これを使って、EVAグリップそのものも削れる。その際にはノミを使わず、目の粗いサンドペーパーを使えばいい。
傾斜ガイド
木製のパイプに先細りの傾斜をつけたいときに、このような装置で作業を効率化できないかと、考案してみた。
しかしこれは失敗だ。サンドペーパーがずれて、全く役に立たない。頭で考えるのと、実際とは、大きく違う。それでも私の頭は、あんなことができないか、こんなことができないか、と妄想を繰り返す。
ラッピングローラー
ガイドリングをブランクに糸で巻きつける際、左手でブランクを持ち、回転させながら、右手で糸にテンションをかけ、巻きつけてゆく。これを何個も連続して長時間行うと、左手の指が攣る。
そこで考えた。動力を用いて、この工程を効率化できないか? 下の写真の装置は、その前段階として、ブランクの固定のみを装置に任せようとしたものである。
この装置はブランクを固定しつつも、自由に回転できるように工夫してある。現時点では手回しだが、回転は良好なので、次の段階として、モーターを組み込んで、より一層の効率化を図ろうと企てている。
ドライモーターのローラーベアリング化
糸巻きを終えたガイドにコーティング剤を塗り、それが硬化するまで、ドライモーターを回し続ける。ティップセクションは軽いから問題ないが、バットセクションは、バットエンドにバランサーを仕込んでいるため重いうえに、にょっきりと偏心したトリガーグリップが回転のバランスを大きく損なっている。そのため、窪みに載せるだけの受け手では、摩擦が大きくてモーターに負荷がかかりすぎる。そこで受け手に車輪を取り付け、ローラーベアリング化した。(写真の手前のもの)。
最終的にはドライモーターは4基を稼働させる予定でいる。そうすれば同時にロッド2本が仕上げ可能だ。そのためにドライモーターを自作するつもりだが、受け手がこのようなローラーベアリングだと、出力の小さなモーターでこと足りるだろう。
・・・終わり・・・
これで、“SBT−11260”の作製に関する資料を終わる。
この資料の目的は、ここに示したブランクスルー・ダブルハンド・擬似オフセットのコンセプトを、他の多くのベイトタックル使いのアングラーたちと共有したいと考えたからだ。
そのコンセプトに基づいて、私はそれを具現化するひとつの事例を示した。誰か、私の取り組みを超える、あっと驚くような、あるいはううむと唸らさられるような、そんな地平を切り開いてくれないか。私はそのための道標のひとつになりたい。