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ガイドの数と位置

 ガイドの数と位置を決めるためには、いくつかの法則性を理解したうえで、何度もシミュレーションする。そのシミュレーションには表計算ソフトを使うが、ここではそれは省く。そこでやっていることはそれほど高度なことではなく、鉛筆を舐めながら数字を消したり書いたり、電卓をたたいたりという作業を、パソコンの画面でやるだけだ。表計算ソフトの利点をひとつあげるなら、設定した数値を瞬時にグラフ化し、視覚的に表現してみることができることだ。

グラフ

ガイドの個数に関する法則性

 ガイドの数は、ロッドの折れに対する強さのためには、多ければ多いほど良い。ガイドが多いほどロッドは自然に曲がり、本来そのブランクが持っているポテンシャルを引き出す。かと言って、どんなにガイドを増やしても、ブランクが本来持つポテンシャル以上のものを引き出すことは、もちろんできない。したがって、これ以上ガイド数を増やしても、実用上は無駄になるという個数がある。
 片や、ロッドの軽さやコストの抑制のためには、ガイドの数は少なければ少ないほど良い。しかし数が少なすぎると、ロッドは歪に曲がり、ブランクが本来持つポテンシャルを引き出し切る前に折れる。
 この2側面から絞り込んでゆけば、適正なガイドの数は、両側面のバランスの上に決めることができる。私の場合は、重かろうが振りにくかろうが、何より折れにくいロッドを求めるので、11ftのロッドならトップガイドを含めて11個がベストだ。

ガイドの位置に関する法則性

 ガイドの位置は、確かに、ロッドの持ち味を左右するかもしれない。ただしそれは、本来ブランクが持っているポテンシャルの枠の中での話だ。逆に言えば、ガイド位置の設定によっては、ブランクが持っている本来のポテンシャル以上のものを引き出すことはできないのだ。
 ガイドの配置は、基本的に、先に行くほど間隔が狭くなるものだ。なぜならブランクは先に行くほど曲がりやすいからだ。ガイドの役割は、極言すれば、ブランクおよびラインの曲がる角度の分散だから、ブランクの良く曲がる部分の間隔が広いのはいけない。
 ところが、ロッドに一定の力が加わると、穂先の部分は一直線に伸びて、その部分のガイドには全く力が加わっていない。とすると、この部分のガイドの間隔は、相対的には、広くてもよいということになる。それよりも魚とのファイトで、曲がって耐える部分は、実用域ではロッドの中央部だ。だからこの部分のガイド間隔は、相対的には狭くなければならない。そして、最も曲がりにくく、まずめったに折れる場所ではないバット部のガイド間隔は、相対的には広くてよい。
 そこで、このような設定になる。穂先からバット部に向かい、徐々にガイドの間隔は広くなってゆくのだが、広くなる度合いは一定ではない。トップガイドからの数個は、魚のファイト時には働かず、キャスト時にのみ働く。ここが折れるのは不用意にロッドを立て過ぎた場合のみだ。だから間隔は広くてよい。最初から間隔が広いのだから、徐々に広くなるにしても、その度合いは小さくてよい。中央部は狭めのガイド間隔を守らなくてはならない。徐々に広くしてゆくが、その度合いは小さく、ここにはガイドが集中している。バット部は、ブランクの最も強い部分なので、直径が太くなるのに比例させて、ガイド間隔も広げてよい。
 この設定を、ブランクのテーパーに単純に比例させて、ガイド間隔を徐々に拡大した架空の設定と比べてみると、相対的に、ロッドの中央部にガイドを集めた設定となっている。

今回のガイドの設定

 上記の設定を、試行錯誤しながら、紙に書いたり消したりを繰り返すのが大変なので、表計算ソフトを使うのだ。そうして私が煮詰めたガイド設定は、ガイド間隔でいうと、トップガイドから15cm、16cm、17cm、19cm、21cm、22cm、23cm、25cm、30cm、35cm、そして次のリールまでが61cm、そしてトリガーからバットエンドまでが52cmとなっている。
 上記の設定で苦労したのは、ジョイントをガイドとガイドの中央に持ってくることだった。ロッドの抜き差しの際に、ガイドに指がかからないようにしたかったのだ。それで一度ガイドを歪めてしまったことがあるから。
 一覧表にまとめると下表のようになる。2行目がガイドの間隔(cm)、3行目はガイドのリングサイズ(富士工業による規格)を示している。種類は、いずれも富士工業製のSiCリングで、トップがMN、他がLN、ただし最もバット側のものだけMNを使用している。

TOP 10 11
0 15 16 17 19 21 22 23 25 30 35
10 10 10 10 10 12 12 12 16 16 20

 フレームはすべてチタンだが、最もバット側のガイドだけチタンコートのステンレスフレームだ。この選択は、強度や軽さを求めたものではなく、できる限りメンテナンスフリーで錆に強くしたいからだ。最もバット側のガイドがチタンコートのステンレスフレームなのは、このリングサイズでチタンフレームの製品がないからだ。材質をチタンにすれば(LN)、大きさが限定される。大きなガイドを使おうとすると(MN)、材質が限定される。
 最もバット側のガイドがなぜこのサイズでなければならないかというと、ナイロンラインを使った場合、リーダーの結び目が大きくなって、風の強い日に結び目がガイドを叩くからだ。ナイロンラインを使わないなら、こんな大きなガイドは必要なく、したがってすべてのガイドをチタンのLNで統一できる。
 11個ものガイドを使ってラインテンションを分散させるので、やわなチタンガイドでも飛ばされることはない。それよりも錆びないことが決定的なメリットとなる。ガイドフレームに使われているステンレスは、おそらく安いもので、多少は錆びるのだ。特に巻き糸の中で錆びると、膨らんでコーティングに亀裂を生じさせる。そんなことに神経を使いたくないので、最初から錆びないチタンを選択したのだ。

ガイドのラッピング

 ガイドのラッピング(巻き糸による固定)に関しては、私は独自のこだわりを持っている。
 こんな経験がある。古くなったロッドで、ガイドのコーティングが劣化し、ひびが入った。修理が必要だろうかとそこをいじっていると、コーティングがぺりっと剥がれた。コーティングの下はラッピングのスレッドが巻かれているのだが、コーティングはスレッドに浸透せずに、単にスレッドの表面を覆っているだけだった。その後何度か同じ経験、もしくはガイドの取り換えをしたときも、コーティングはぺりっと剥がれるのだった。その下のスレッドは隙間なくきれいに巻かれてはいるが、割とゆるゆるである。私はそれが気に入らない。こんなに簡単にコーティングが剥がれてほしくない。
 そこで私はラッピングをきれいにやるのをやめた。動画のとおり、雑に何重にもぐるぐる巻きに、わざとする。何重にも重なっているから下のブランクやガイドの足は見えずに隠れている。しかし一層ごとの糸は隙間だらけで、複雑に交差し、表面はでこぼこになる。それでいいのだ。そうであってこそ、コーティングが巻き糸の下に深く染み込む。だからぺりっと簡単には剥がれない。
 きれいに巻く必要なんかない、むしろ雑なぐるぐる巻きの方がいいと決めたら、もうひとつのメリットが生まれる。ガイドの足を削らなくてもよくなるのだ。ガイドの足を削るのは、ブランクからガイドの足に巻き上げるときに、あらかじめ削って段差を小さくしておかなければ、段差が大きすぎて糸に隙間ができるからだ。いわば外見上の、実用的ではない理由のために過ぎない。そもそも傷が大敵のブランクに、わざわざ鋭く研ぎ出した刃なんか載せたくない。
 ところで、そんなに雑に巻いたのであれば、コーティングしても仕上げがきれいにならないのではないか? そんな心配は無用だ、黒糸単色を使う限りは。コーティングが終わったら、きれいに巻いたのと外見上の差はほとんどない。ただし虫眼鏡でじっくり観てはいけない。そんなことをしても、精神衛生上よくないだけだ。
 ・・・という理由で、このところ、私の作るロッドはすべて飾り巻きはなく、ガイドの巻き糸は黒単色なのだ。

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