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もうひとつのトレードオフ

 こちらを立てれば、あちらが立たず。このようなトレードオフは、他にもうひとつある。それはグリップの角度をどの程度立てるか、である。下の写真は、オフセットグリップを純化させた形で実現しようとした、2010年の試作品である。そのコンセプトは極めて明確だった。手首の角度を完全に自然なものにするために、まさにピストルのようなグリップの角度を持たせたのだ。

立て過ぎたグリップ

 このようなグリップは何を犠牲にするのだろう? 写真からは想像がつかない。一見、きわめて合理的なグリップに思える。しかし振ってみればすぐにわかる。力点とブランクが一直線をなさないため、キャストフィールが少し悪い。ボヨヨ〜ンという感じ。シャキーンというような、ベイトキャスティングタックル特有の、小気味よいフィーリングは損なわれる。
 上の写真では60°ぐらいだろうか。これでは角度が大きすぎる。他方、0°の直線的なグリップでは手首に負担がかかる。その両方をバランスさせるベストなポジションは、おそらく30°を少し切ったぐらいだ。

太さの改良

 次の写真は、2012年に作った、ヒラマサ専用のロッドだ。めっぽうヘビーに作ってあり、とてもじゃないが丸一日のキャスティングは無理だ。しかし短時間の集中したチャレンジにおいて、今までで最高のロッドに仕上がっている。このロッドですでに何本ものヒラマサを仕留めた。

太過ぎたグリップ

 しかし、重大な欠点もある。このロッドを作るとき、私は一つの誤解をしていた。グリップは太い方が力が入りやすい、と。それは間違いだった。太いグリップはそれを握る指が回りきらず、フルキャスト時に指の隙間からロッドが滑り出てしまう。キャスティングに力が入りすぎて、今までに2回、このロッドを海に放り投げてしまった。幸い2回とも海の荒れた日ではなかったので、ことなく回収することができた。今思ってもぞっとする。今後はグリップは細く、しっかりと握ることができるようにしなければならない。

EVAの断念

 次の写真は、同じく2012年に作った、磯の汎用ロッドだ。ヒラスズキも、ワラサも、この一本で釣る。これは極めてバランスのいいロッドで、とても使いやすい。

中途半端な滑り止め

 しかし、やはりグリップが中途半端だった。その理由は、EVAの滑り止めにこだわったからだ。これがないとロッドが握りにくいに違いない。これも思い込み、あるいは幻想だった。
 最初のうちは滑り止め効果があるが、やがてEVAのスポンジ質の表面は皮脂や手垢、それに魚のぬめりで目詰まりし、滑り止め効果を失ってゆく。さらには長年の使用のうちに掌で擦られて、表面が擦り減り、てかてかになって、滑り止め効果はなくなってしまう。
 こんなことなら、最初からなくても構わない。それにこのEVAを除外するなら、構造がシンプルになって、同じ強度でもっと細くできる。その際、滑り止め効果は、グリップ表面の材質に求めるのではなく、握りやすいグリップ形状そのものに求めればいいのだ。

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