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ダクテッド・インナーブレード・プロペラの型紙

 プロペラの作製方法は、型紙を作って、それを大量に複製し、少しずつずらしながら重ね、エポキシで固めていく方法である。これは積層法で作り上げるFRPであるが、ここではグラスファイバーの代わりに厚紙、すなわちセルロース繊維を用いる。
 厚紙の厚さは0.7mm。プロペラの羽根の厚さは約6cm。したがって、それだけで厚紙85枚を必要とする。さらにダクトの部分を加えると、その倍近くの枚数が必要になる。A3の厚紙は、近所の文房具屋で、1枚60円。とすると、必要な厚紙を購入するために1万円を超えてしまう。これは高いな。しかし今のところ、私は厚紙以上に適切な素材を知らない。
 紙でなくても、例えば合板などでもいいのかもしれないが、紙の加工性の高さがありがたい。型紙を切り抜くのが、カッターで容易だ。ただし、紙は薄いので、切り抜く枚数が多くなる。直径30cmの複雑な形状の円盤をたくさん切り抜くのは、実に骨が折れる。
 硬化後の整形が、ヤスリで比較的容易にできることも、紙の長所だ。グラスファイバーのFRPでは、硬すぎてこうはいくまい。とは言っても、紙でさえ、たくさん削るのは骨が折れるのだが。
 では反対に、完成後の強度に不安はないのか? それは大丈夫だ。これは初めての試みではなく、過去に一度やって、その強度は確認済みである。エポキシが単体で固まると、硬くカッチカチになる。しかし、ガラスのように脆く、衝撃に弱い。それをセルロース繊維が補強して、十分な粘りを備え、衝撃にも強くなるのだ。

型紙

 ただし、問題点もなくはない。それは完成物の重量だ。セルロースは重いのだ。木は繊維の間に大量の空気を含んでいるので軽い。しかしそこからセルロース繊維を取り出し、板状に圧着して製紙されると、空気が排出されて、とても重くなる。しかも、紙はエポキシをよく吸って、さらに重くなる。それに加え、紙のFRPはあまり薄くはできず、一定の厚みを必要とする。そのために体積が増し、結果としてますます重くなる。

積層の工程

 この工程にはコツが2つある。エポキシが固まり始めるまでの限られた時間内に、素早く作業を終えること。そして厚紙に十分にエポキシを吸い込ませることだ。
 紙へのエポキシの浸透はとても深い。だからエポキシの量が少ないと、紙の中に完全に吸い込まれてしまって、紙と紙の間のエポキシがなくなり、エポキシ硬化後に剥がれてしまう。それを避けるためには、エポキシが十分に紙に含浸したうえで、さらにしたたり落ちるほどのエポキシを盛る必要がある。しかし、時間は限られている。ここに相反する2つの条件を同時に満たす必要が出てくる。
 だからすべてを一度に終えようとするのは無理だ。一度に大量のエポキシを混合するのではなく、何度かに分けて新たにエポキシを混ぜ合わせ、エポキシの硬化時間を稼がねばならない。

積層

整形の工程

 積層の工程後、エポキシが十分に硬化したら、次にはそれを削って、デコボコをなくし、表面を滑らかにする。そしてブレードの断面を翼型に整形し、エッジを刃のように薄く研ぐ。
 ヤスリでなんとか削れなくはないが、なにしろ削る量が多い。最初から薄く作ればいいものを、十分なバッファーを持たせて、最初は厚さ1cmに作り、そこから厚さ5mm程度に削り込んでいくとともに、エッジを薄くする。つまり体積の半分以上を削るということだ。
 しかも形状が複雑だから、ヤスリが奥まで届かず、しかも微妙なヤスリの角度をコントロールしなければならない。この作業にはほぼ1週間を掛けた。

削る

 ダクトを含めた外側を削るのには、さすがに動力を活用する他なかった。旋盤を自作し、充電式の電動ドリルで回転させた。ところがこの作業にもまた、数週間がかかった。
 充電式のドリルは、旋盤として用いると、電池が5分しかもたない。そして充電には45分かかる。充電池が2個ついていたので、可動10分、充電1時間半。これを1日に何度も繰り返す。
 刃にはノミを使ったが、エポキシは硬度があるから、刃がもたない。電池の寿命5分ごとに、2本のノミを研ぎ直ししなければならなかった。
 そうまでしても、整形は全然進んでいかない。削りかすが鰹節よりもずっと薄く、少しの風でも飛んで行ってしまうほどの薄さだからだ。
 しかし逆に言えば、この作業は時間がかかるだけの、技術的には何ら難しいところのない、簡単な作業ではある。

 こうして私の設計したダクテッド・インナーブレード・プロペラは完成した。最終的な重量は、1kgを優に上回る。ずっしりと重い。

完成

 それを、クロスピンを仕込んで、駆動部のシャフトに固定し、その後ペンキを塗り、これでプロペラが完成すると同時に、ボート全体の完成である。

セット完了

 あとは進水式・試運転を待つばかりだ。

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