ハウジングの肉付けと表面処理
これから、プロペラハウジングの骨組みに、エポキシ接着剤により肉を付ける。接着剤そのものを樹脂として使用するので、垂れないように、タコ糸で表面を覆った。
しかし、エポキシ接着剤はどうしても垂れる。滴がそのままの形で硬化する。それを避けたくても、硬化前に整形することができない。そのため硬化後の表面がでこぼこになる。それを滑らかに均すために、ポリエステル系のパテで表面を覆った。パテなら硬化する前に、ヘラ等で整形することも可能だ。
ポリエステルのパテは、以前にアルミ製のスクリューで失敗したように、重量が顕著に増す。しかしこのハウジングは回転するわけではないので、重量増によるエネルギーのロスは大したことはない。
こうして、エポキシとポリエステルによる、2重の樹脂製筐体ができあがった。強度は十分だ。もう少し熟練すれば、より自由に造形することができそうだが、今回はここで満足しておくことにする。
最後に色を塗って、ハウジングは出来上がりだ。ペンキは水性アクリル系・プラスティック用のものを使った。粘度があるので、水性だからといってはじかれることはなかったが、乾燥しても完全に硬い皮膜にはならず、ビニールのような柔らかさが残る。この特性は知っておいていいだろう。
予想外のアクシデント
ハウジングが完成した後、プロペラシャフトを電動ドリルに接続して、ギアやシャフトの回転を確認してみた。長時間の稼働にも耐えうるか? 5分ぐらい回し続けた。
回し始めの抵抗が少し重い。軸受けのナイロンスリーブやパッキンのゴム板がまだきつすぎるのだろう。そのうち摩耗してきて、ちょうどよくなるに違いない。しかしいったん回転し始めると、軽快に電動ドリルは回った。ギアのごろつきも感じなかった。成功したと思った。
ところが、5分ほどの稼働の結果、内側のシャフトの回転が止まっているのに気づいた。おかしい。ギアが空回りしている。なぜか? 考えられることはただ1つ。シャフトとギアの接着が外れたのだ。
こうなると、修理することができない。一体成型なので、筐体は分解できない。一度破壊して、作り直すしかない。
失敗の原因
ギアの接着が外れたのであれば、シャフトは抜けるはず。予想した通り、シャフトはするりと抜けた。そして接着剤の剥離の原因もたちどころに分かった。シャフトが、手で触れないぐらいの高温になっていた。きっと100℃を超えている。そのために接着剤が剥離したのだ。
なぜこんなことに? 摩擦熱だ。予想外、盲点だった。摩耗にばかり気を取られ、摩擦のもうひとつの結果である発熱に関しての注意が欠けていた。
しかし、現象がはっきりしている以上、予防の対策も容易に考え付くことができる。
(1)シリコン系ホワイトグリスがまずかった。グリスの粘度が高すぎる。樹脂を侵さないようにと、敢えて高価なシリコン系のグリスを選択したのだが、このグリスは潤滑の効果が低いのだ。そのために想定以上に発熱した。したがって、2重反転シャフトには、粘度が低くて潤滑性能の高い別のグリス、もしくはオイルを使用すべきだ。
(2)海水によるシャフトの錆を気にして、パッキンを設け、密閉性を高くしたのがいけなかった。パッキンによる余分の抵抗のせいでシャフトの摩擦が増した。こんなことなら、敢えて海水が内部に入るようにして、水冷式にした方がよい。
以上の対策で摩擦熱の問題は解決できるだろう。
しかし、やり直すだけの時間が今季はもうない。夏が過ぎ、秋が訪れようとしている。秋から冬にかけての好シーズンを、ボート作りのためにだけ費やすことはできない。フィールドに立つことが優先だ。やむを得ない。このプロジェクトの優先順位を下げ、作業ペースを落とさなくてはならない。