俵型の穴を開ける
ドラグワッシャーを自作しようとするとき、中心部に俵型の穴を開けなければならない。これが非常に難しい。その形状および寸法は、下の図のとおりである。
かつてクリックホイール(ドラグワッシャーの1種)をステンレスで自作したとき、この形の穴を開けようとして苦労をした挙句、きれいに仕上げることができなかった経験がある。まずドリルで直径5mmの穴を開ける。それをヤスリで、長辺6mm、短辺5mmの長方形に広げる。そして6mmの2辺を丸く削り、俵型にする。下の写真が、そのような方法で穴を開けたクリックホイールなのだが、穴の形がいびつになってしまったのがわかる。
せっかくだから、今回は完ぺきに仕上げたい。そこで少し手の込んだことをすることにした。まずは正確に俵型の穴を穿つための工具作りから始める。
俵型楔ツールの作製
このような工具を何と呼ぶか知らない。仮に楔(くさび)と呼ぶことにしよう。ワッシャーの材料はSUS304、比較的柔らかいステンレスである。したがって焼きを入れた鋼鉄製の楔を打ち込めば、穴を広げることができるだろう。その楔の断面を、上の図のとおりの俵型にすればよいのだ。
材料は軸の部分が直径8mmの、ドライバーだ。先端部は邪魔だから切り落としてしまう。最初は金属のこぎりで切り落とそうとしたのだが、焼きの入った鋼鉄は硬すぎてのこぎりの歯が食い込まない。そこでグラインダーで削り落とした。この硬さこそがいい。私の求めていたものだ。
次に、俵型の平面部を正確に作り出すために、厚さ6mmのヒレを瞬間接着剤で接着する。材料は厚さ3mmのアクリル板だ。それを2枚貼り合せて、厚さ6mmにした。
このヒレの役割は、削り取る円弧を正確に1mmとするためのストッパーであることと、削り出す平面の水平を実現すること、そして相対する平面を完全に平行なものにすること、の3つである。
平面部の削り出しには、下の動画のとおり、粗めの砥石を使った。この作業において、上述のヒレは、作業の精度を決定的に高めてくれた。ちょっとした工夫だったのだが、その効果は絶大だった。
それが完成したら、次は先端を細くする工程である。針のように尖らせる必要はない。プレートにあけた直径5.5mmの穴に入ればいいのだ。ただしできるだけ角度を鋭くし、ハンマーのひと叩きごとにプレートの穴を押し広げながら、楔がずんずん奥へ割り込んでいくようにしたい。
この工程にはグラインダーを使い、最後にサンドペーパーで仕上げた。
俵型穴開け工程
楔ツールができたので、作っておいたプレートの穴を、5.5mmの真円から、俵型に押し広げる。方法はハンマーで叩いて打ち込むという単純なものだ。プレートは柔らかいステンレス、楔ツールが焼き入れした鋼鉄だから、楔ツールの硬さが勝り、プレートの穴が変形して押し広げられるという計算だ。
このことを見越して、プレートの穴を0.5mmだけ小さくして、全体が押し広げられることによって、きっちりとした整形を期待した。結論から言うと、この考えは少し安易すぎた。俵型の長径は8mmだから、中心から最大1.25mm、穴は押し広げられることになる。実際には大変な作業だった。下穴は5.5mmの真円ではなく、短径5.5mm、長径7.5mmの楕円でよかった。とはいっても、それは作業効率の悪さの問題であって、この作業が失敗にはつながらなかった。
俵型穴の整形
こうして形状の完璧な俵型の穴が開いた。しかし、ハンマーで叩いて楔ツールを打ち込んだために、穴周辺の肉が盛り上がっている。
これを削って、再び平らにしておく。
この状態では、寸法ぴったりの穴であり、断面は立ち、つんつんに角が尖っている。これだと、遊びがないため、メインギアブッシュにスムーズに挿せない。そこで最後にサンドペーパーで、すこし形状を甘くしておく。これで穴開けの工程は終了だ。