設計の基準 その1
船体はどのようなものであるべきか? 何か法則性があるはずだ。私にとってボート作りなど初めて取り組む分野だから、経験で身に付いている知識はゼロだ。だから、想像力を駆使して、とっかかりをつかもう。
泳いでみればすぐにわかることだが、水の抵抗というのはとても重く、それはボートの推進力を大いに減衰させる。船体の設計は、水の抵抗をいかにして軽減させるかが、最大の課題だろう。
そこで下の図のように考えてみた。
材質と体積が同じ直方体が二つある。このうち左のものは前後に極めて長く、角材状になっている。右のものは立方体に近い。材質が同じということは、比重も同じで、水面下に沈んでいる部分の体積も同じである。この2つを手前に引っ張るとき、水の抵抗はどのように異なるだろうか?
アングラーならいつもルアーを引いているので、直感的に、左の方がはるかに抵抗は少ないとわかる。水の抵抗は、進行方向の水面下の投影面積(という言い方で正しいのか? 直方体の場合は断面積と言っても同じだが)に比例するのだ。
この直感で得られる結論をもう少し理屈で裏付けてみると、水の抵抗は、進行方向の投影面積×ボートの進行距離で得られる体積の水を押しのけて進むために必要なエネルギーということにならないか?
とすると、同じ浮力を得るためには同じ体積の船体である必要があるが、その形状は前後に長細く、進行方向の投影面積が小さければ小さいほどいい、ということになる。言い換えれば、ボートの全長は長ければ長いほどいい。もちろん限度もあって、材質の強度及び軽のワンボックスの車内に積んで運ぶ利便性を考えれば、1片1.8mの2分割で、全長3.6mが限度となるだろう。
設計の基準 その2
今、水の抵抗はボートが押しのけて進む水の量に比例すると述べた。しかしそれだけでは足りない。水を押しのける速度を考慮しなければならない。
水を押しのけるとき、勢いよく押しのければ、船首部に大きな波ができる。そこには大きなエネルギーを費やすことになる。これはエネルギーの無駄だ。ボートの速度が同じでも、水をできるだけ静かに押しのけるにはどうすればいいのか? 言い換えれば、水を押しのける速度を低く抑えるには? その考察が下の図である。
ここに船首の角度の異なる2艘のボートがあり、同じ速度で進んでいる。1秒とか2秒とか、ある一定時間を経ると、同じ距離を進む。このとき水をどのようにかき分けるか。
左の船首の尖ったボートの方が、水を押しのける距離が小さい。しかし問題は距離そのものではなくて、一定時間の移動距離、すなわち速度である。もっと言えば、ボートが水に与える加速度が、ボートが水の抵抗に奪われるエネルギーだ。だから、先端部の角度が尖っていればいるほど、水の抵抗は少なくてすむ。
同じことは船尾の角度についても言える。船尾は水をかき分けるのではなく、かき分けた水が逆に閉じる。このときに勢いがあると水は渦を巻く。この渦は船体を後方に引き戻す力を及ぼす。したがってこれをなくすためには、できるだけ静かに水を閉じ合わせるように、船尾の角度も尖っている方がよい。
とすると、船体の形状は下図のようなものとなるだろう。
しかし、このような形状は、横方向の揺れに対して弱く、安定が悪い。この上に座ってペダルをこいだり、釣りをしたりすると、転覆する恐れがある。そこで双胴艇という必要が生まれてくるのだ。
設計の基準 その3
ここから先は、ボートの性格づけとなる。
ボートは水をかき分けて進む。では、それは左右に? それとも上下に? 上下にとは言っても、潜水艦ではないのだから、事実上もっぱら下に、ということになるだろう。
下の図は、水を左右にかき分けて進むモデルだ。
いっぽう、下の図は、水を下にかき分けて進むモデルだ。
例えばプールのように波も風もないような場所では、両者の違いは顕在化しないだろう。しかし海には波も風も潮流もある。それぞれに長所と短所が顕在化すると推測できる。
水を左右にかき分けて進むモデルは、荒れた海では船首が波の中に突っ込み、波をかぶる恐れがある。
他方、水を下にかき分けて進むモデルは、波を乗り越える力が強すぎて、前後の揺れがどったんばったんと激しいのではないだろうか? あるいは水面を滑ることにより、横風に弱いかもしれない。
とすれば、実現すべき船体の形状は、両者のよいところを兼ね備えた、下図のようなハイブリッドモデルになるだろう。
このような考察を進めている間、実在する漁船、モーターボート、カヤックの船体形状が気になってしかたなかった。でも、よく観察してみると、どれも形状はもっと複雑ではあるが、本質的には上述の2つのモデルのハイブリッドであることに気付いた。おそらく私の考え方は間違っていないのだ。