アクリルの手強さ
アクリル板は、近くのホームセンターで売っている、ありふれた素材だ。それがこんなに手こずらされるとは、思ってもみなかった。
プラスティックが、加工性のよい、扱いやすい素材だと思っていたのは、大間違いだ。切る、穴を開ける、接着する、削るといった加工が、とんでもなく難しい。極めて手強い素材だ。
そのうち、切ることについては、アクリル用カッターでうまくいった。もしのこぎりを使ったらどうなるかを、たまたま過去に経験済みだった。のこぎりの歯が少しでも引っかかれば、パリンとあっけないぐらいに割れてしまう。その割れ方はまるでガラスのようだった。だから今回は素直にアクリルカッターを購入した。これは便利なツールだ。アクリル板をカットするのにもってこいだ。難点は、直線にしか切れないことだ。
ともあれ、アクリル板を買ってきて、それを長さ30cm、幅2cmに切り、24枚の短冊を作った。これは前回のアルミの経験から得た教訓だ。2.5cmは厚すぎる。2cmで十分だ。
アクリルへの穴あけのコツ
シャフトは10mmのステンレスにする予定だ。したがってすべての短冊に直径10mmの穴を開けなければならない。そんな単純な作業が難航するとは思いもしなかった。鉄鋼用のドリルの刃を使い、電動ドリルで穴を開けようとすると、一定の深さで刃先が引っかかり、短冊はいとも簡単に割れる。何度やっても同じ結果だった。ドリルの回転を落としてゆっくりやってもダメだった。意外なところでつまづいた。
きっとアクリルは何か特殊な性質を持っているんだな。諦めて、アクリル専用のドリルビットを買うしかなかった。アクリルカッターで思い知ったとおり、アクリル専用の工具はやはり使い勝手がいいに違いない。
しかし問題がひとつあった。ホームセンターで売っているアクリル専用のドリルビットは、最大でも直径6mm。開けたい穴は直径10mm。穴の大きさが足りない。それなら6、7、8、9、10と、徐々に穴を大きくすればどうだろう? 鉄鋼用ドリルビットでも割れずに穴が開けられないか? そう考えて、6mmのアクリル用ビットと、7、8、9、10mmの鉄鋼用ビットを買うことにした。
ホームセンターで買い物かごに入れて、想像してみた。この場合、どんな問題が起こるだろう? 穴の中心がずれたりしないだろうか? そう思って考え込んでいた時、アクリル用ビットと、鉄鋼用ビットの先端の形状の違いに気付いた。らせん状の溝のあるなしは本質ではあるまい。そうではなくて、刃先の角度が問題なのではないか? アクリル用ビットは刃先の角度が尖っている。いっぽう、鉄鋼用のビットの先端は角度が開いている。だから鉄鋼用ビットでは、一定の深さで刃先が引っかかって、アクリル板が割れてしまうのではないか?
そこに本質があると考えた。ならば、鉄鋼用だろうが、木工用だろうが、とにかく先端の角度の狭いドリルビットを探せばいいのだ。その条件を満たしたうえで、最初から直径10mmのものを。
それは何種類かある木工用のドリルビットの中に、すぐに見つかった。さっそくその中の直径10mmのものを購入し、家に帰って試してみた。思った通りだった。アクリル板は割れずに穴が開いた。下の写真の右端のものが、その時購入した、先端の角度の狭い木工用のドリルビットだ。
上の写真の左端は、鉄鋼用のドリルビットだ。この鉄鋼用のドリルビットでうまくいかなかった後、手持ちのビットの中から真ん中の木工用ドリルビットを見つけ出して試してみた結果、これもアクリル板が割れて穴を開けることができなかった。症状は同じだった。一定の深さで刃先が引っかかり、パリンと簡単にアクリル板が割れたのだ。新たに購入してうまく穴が開いた右端の木工用ドリルビットを、他の2つと並べてみれば、その特長が分かるだろう。先端の角度が狭いのだ。つまりアクリルには、刃の先端で掘り進むようなビットは不向きで、刃の側面で掘り広げるようなビットが有効なのだ。
とにかく、この木工用ビットを手に入れたことによって、ようやく24枚の短冊すべてに穴を開けることができた。