カシメの方法
ステンレスで作った嵌合部と、ギアの付いたステンレスのシャフト。この2つをどのようにしてカシメればよいか。もちろん、穴の直径をシャフトの太さよりも小さくして、きつく挿入すればよいのだが、経験上ステンレスはカシメにくい金属だということがわかっている。変形により圧着させても固着しにくく、ぽろりととれる。
だから、もっと物理的な形状の工夫をしなくてはならない。そこで、3mmのシャフトを四角く削って角を立て、2.7mmの穴に叩き込むことによって、穴を四角く変形させ、少なくともねじれの力に対しては強く耐えるようにしよう。
そのやり方だと、引張りの力に対しては弱くなる。なぜなら穴の体積の変化が小さくなって、踏ん張る力が弱くなるだろうからである。しかし機構上、ピニオン嵌合部には、ギアから引き剥がす力は働かない。ぽろりととれて、リールの中でコロコロしさえしなければそれでいいのだから、カシメたうえで瞬間接着剤で止めておけばよい。
そのように考えて、まずはピニオンのシャフトを四角く削ることにした。
少しいびつになってしまったが、とにかくシャフトと嵌合部との接合では、ねじれの力に耐えることが重要なのだから、この四角いシャフトを、嵌合部の直径2.7mmの穴に叩き込むことにする。
シャフトへの固定
思ったとおりだ。金槌で叩きこんでカシメただけでは、いじっているうちにぽろりととれる。瞬間接着剤で止めなければならなかった。
瞬間接着剤で止めたからと言って、この固定が瞬間接着剤の強度に依存しているわけでは決してない。瞬間接着剤の役割は抜けないようにするだけで、ねじれの力に耐え回転しないようにするのは、物理的な形状を四角くしたことによっている。金槌で圧入したから、嵌合部の穴が四角く拡がり、シャフトの形状と一致しているのだ。
組み込み
これでピニオンギアはリールに組み込めるようになった。しかし完成ではない。組み込んだうえでリールが正しく機能するかどうか、試してみなければならない。おそらく形状と寸法の微調整が必要だろう。
確認すべきは、次の点である。
1)クラッチがちゃんと切れるかどうか。プッシュボタンを押し込んでも、スプールがフリーにならなかったとしたら、嵌合部の「コ」の字型が深すぎるのだ。
2)メインギアと嵌合部の干渉がないかどうか。クラッチを切った時にピニオンギアがスライドし、嵌合部はメインギアに接近する。嵌合部がメインギアの歯に接触し、傷めることがないかどうか。
3)クラッチをつないだ状態で、リールをスムーズに巻けるかどうか。嵌合部がスプールとしっかり噛み合うかどうか。
組み込むリールは、旧型(非IAR)の2500Cである。その理由は、私はワンウェイ・ローラーベアリングが嫌いだからだ。ローラーが錆びたことはないものの、ハウジングが錆びるし、すり減ったりしていったん滑り出すと節操なく逆転する。だからわざわざ旧型を使うのだ。
しかし旧型には旧型で欠点がある。ドラグのクリックホイールが鉄製なことだ。メッキはしてあるが、すぐに錆びる。だから旧型の筐体の中に新型のギアとドラグを移植して使うのだ。互換性はある。(・・・と勘違いしていたことが判明した。無加工での互換性はない。このことは次のページで詳述する。)
やはり不具合があった。
1)ドラグが強く締まらない。
2)ハンドルがスムーズに回らない。
3)クラッチを切るのに引っ掛かりがある。
4)何とかクラッチが切れても、何かが接触しているような感触があり、スプールの回転がスムーズではない。
動画の中で懸命に調整しようとしているが、私はひとつの根本的な問題を見逃していたのだ。(動画は一部を早回ししている。)