ピニオンギアの形状
これはIARモデル、ギア比5.3:1、歯数12のピニオンギアだ。首尾よく改造を施すために、形状をよく観察してみる。この形状がどのように機能するのかを知っておかなければ、改造は成功しない。
「コ」の字型の嵌合部は、下の写真のように、スプールシャフトの平面部に食いつく。クラッチを切ると、ピニオンギアがスライドすることにより、嵌合部が切り離される。クラッチの機能は、ピニオンギアとスプールの接続を切り離すのであって、ピニオンギアとメインギアは常に噛み合っている。
ピニオンギアにくびれが設けられている。このくびれは、そこにくびき状のプレートが食い込み、そのプレートが押し上げられると、釘抜きのようにピニオンギアをスプールから引っこ抜くためのものである。このくびれの上下に、ギアの歯が刻んである。私の技術では、ギアは自作できない。これからステンレスで置き換えるのは、このくびれから先の嵌合部である。問題なのは、この部分の歯を省略することができるのか、ここに歯が刻んであることに何か意味があるのかということである。もしこの部分のギアの歯が不要であるなら、次のような改造が可能だ。
上の図で、水色の部分が、ステンレスの自作パーツで置き換える部分だ。私自身の技術的制約のために、この部分にギアの歯を刻むことはできない。しかし、それでいいのだろうか?
改造プランの検証
くびれから先のギアの歯が必要なのかそうでないのかを、どのようにして確かめればいいだろうか? それはクラッチを切った状態での、メインギアとピニオンギアの位置を確認すればよい。
下の図で、Aの状態がクラッチがつながっている状態だ。クラッチボタンを押下した時、Bの状態ならくびれの先のギアの歯は不要だが、Cの状態ならくびれの先にもギアの歯は欠かせない。なぜなら、ピニオンギアの歯とメインギアの歯は、常に噛み合っていなければならないからだ。
実物で確認してみたところ、微妙ではあるが、Bの状態なのではないだろうか。とは言っても、パーツの高さなら、適切な場所にワッシャーを当てて調整することも可能なので、Cの状態を無理やりBの状態に持って行くことも不可能ではないだろう。
断念したもう一つの案
すでに改造の方針は定まったのだが、実際にはそうすんなりとこの方針に落ち着いたわけではない。本当は「コ」の字型の嵌合から「−」型の嵌合へと、もっと大掛かりな改造を行いたかった。
「−」型の嵌合は、5500Cから続き、最新のリールにも採用され続けている、耐久性に優れた方式である。5500Cの場合は、ピニオンと噛み合うバーと遠心ブレーキのブロックシャフトが共有されているという、合理的な設計だ。
この方式を2500Cにも採用したくて、しつこく考え続けたのだが、結局のところ無理だとわかった。その理由は、ボールベアリングにあった。
2500Cの右側のボールベアリングは、スプールシャフトの根元にある。スプールシャフトは、わずかにボールベアリングを貫通し、向こう側にほんの少し顔を出す。そのシャフトの端を、向こう側からピニオンギアの嵌合部がとらえるのだ。
もしスプールシャフトに直交するバーがついていたら、ボールベアリングの穴をスプールシャフトが通過できないのだ。この問題を、現代の最新型リールはどのように解決しているのか? 驚くほど乱暴な解決方法がとられている。写真はダイワのアルファスだが、スプールシャフトをボールベアリングに通した後から、バーを挿し込んである。したがってバーを抜かない限り、ボールベアリングはシャフトから外れないのだ。
これだと、5500Cのようにボールベアリングがはるかシャフトの先端に位置するのではなく、2500Cのようにスプールシャフトを短く切り詰めつつ、「−」型の嵌合を実現することができる。そのかわり、ユーザーが自分で手軽にボールベアリングを交換することができない。メンテナンス性を大きく犠牲にすることになる。でも私はペンチを使って自分でバーを引っこ抜き、ボールベアリングを交換しちゃうけどね。
ともあれ、こういう経緯で、2500Cのピニオンを「−」型にすることを諦め、「コ」の字型のままでいくことにしたのだ。