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フィールド・テスト

 いよいよタービン・ブレーキのフィールド・テストだ。5種類のテストを試みた。
1)いつものダイビング・ペンシルのキャスト。シマノの16cm、60gほどのダイペンだ。
2)K−tenの古いモデル、14cmのフローティング・ミノーのキャスト。重量は1オンス弱だ。
3)60gのジグのキャスト。
4)サミングをせず、わざとバックラッシュさせてみる。
5)立ち位置をできるだけ向かい風に設定してキャストしてみる。
 その結果が、下の動画だ。

 どのテストも申し分ない。こんなにうまくいくとは嬉しい限りだ。その出来栄えに感動すら覚えた。
 私のまずもっての関心は、バックラッシュしないかどうかだった。大丈夫。いつもの遠心ブレーキと同じ感覚でキャストできる。ただし、サミングは必要だ。といっても、遠心ブレーキだって、私はぎりぎりサミングでのサポートを必要とする、小さめのブロックを使っている。それと同じ感覚だ。特別神経質なサミングを必要とするわけではない。
 当初、懸念はあった。空気抵抗の少ないジグはキャストできても、プラスティックのルアーはバックラッシュするのではないか。流線型のダイペンはキャストできても、リップのあるミノーはダメではないか。ダイペンでも、飛行中何かの拍子に回転してしまったら、バックラッシュするのではないか。すべて杞憂に終わった。
 次に飛距離だ。これほどの飛距離を叩きだしたことは今までなかった。遠心ブレーキはマグネット・ブレーキと比べて、キャストの後半に伸びがあると言われるが、このタービン・ブレーキはそれ以上だ。タービン・ブレーキと比べれば、遠心ブレーキには不必要で無駄な減速があると感じる。私はルアーの飛距離にあまり重点を置いていないが、逆に言えば、軽いキャストで今までと同等に飛ぶということになり、これは大きなメリットとなる。
 なぜタービン・ブレーキがそうなのか、数式が苦手な私の頭では、物理学に基づいて理論的には説明できない。ただ、感覚的には、空気抵抗によるルアーの失速と、同じく空気抵抗によるタービン・ブレーキの効き方の、同質の特性のためではないか。しかも、タービンの直径とスプールの直径を一致させた。つまり、タービンが排出する空気の速度と、ルアーの飛翔の速度が一致するのだ。どの速度域でも、両者の均衡が成り立つことになる。
 わざとバックラッシュさせるのはかえって難しかった。私の親指は無意識のうちにサミングする習性を身に付けている。それをこらえてバックラッシュさせようとするのだが、なかなかうまくいかない。そこで、キャスト直後にわざと親指をスプールから遠ざけることによって、ようやくバックラッシュさせることができた。
 最後に向かい風を試した。この日は左からの強い横風だったが、テストの終盤、できるだけ左方向にキャストできる立ち位置を探して移動した。そしてほぼ風に向かってキャストできる場所に立った。向かい風でも何の問題もなくキャストできた。そのうち何投かは、ルアーが回転してしまって、向かい風による以上に失速したが、タービン・ブレーキはそれにも追従して、柔軟な効き方を示した。
 結論を得た。この取り組みは成功だ。

次のステップ

 タービン・ブレーキの成功によって、次のステップに進むことができる。それはメカ・プレートのステンレス化だ。
 シングル・アクションのクラッチを備えた新型アンバサダーには、アルミ製のメカ・プレートのモデルと、真鍮製のメカ・プレートのモデルがある。海で使うなら断然真鍮製のメカ・プレートのモデルの方だ。ずっしりと重くはなるが、海水による腐食を気にせず使うことができる。
 ところがダブル・アクションのクラッチの旧型では、すべてのモデルがアルミのメカ・プレートである。このアルミ製のプレートは、長年にわたって使用するうちに、海水による腐食で見るも無残な姿になってゆく。

メカプレート

 メカ・プレートにはさまざまなパーツが装着されているが、1つを除いて自作する自信がある。以前に、新型のシングル・アクションのクラッチを、わざわざダブル・アクションに先祖返りさせる改造を成功させたことがあるが、それと比べれば、そっくりそのままのコピーなどたやすいものだ。
 しかし、裏面の遠心ブレーキのドラムだけは、自作が無理だ。あの形状のものを、設備と言えば電動ドリルぐらいしか持たない素人の工作で作ることはできそうもない。それに、作れたとしても、どうやって誤差なく中心を合わせればいいのか。あの中で遠心ブレーキが高速回転するのだ。ちょっとでも中心がずれたら、振動が生じるだろう。いや、それより、ブレーキの利きが安定しないのではないか?
 そこで私は考えた。遠心ブレーキをキャンセルして、別のもので置き換えることができないか? そうすればあの遠心ブレーキのドラムを作る必要がなくなる。初めて言及するが、それが本当の動機だった。理想のブレーキを追求するなどというのは、取ってつけた虚飾にすぎない。
 だからこのタービン・ブレーキは、性能が多少不十分でもよしとせねば、次のステップに進めないのだった。実際には申し分のない性能なので、この懸念はなくなったのだが。
 とにかく成功してほっとした。次のステップは、数カ月のインターバルをおいて、秋ごろに開始する。他にやるべきことが山積みだからだ。

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