設計ミス
休日の朝、いよいよキャスティングのテストに出かけようとして、タービンをスプールに装着した。
そしてスプールをリール本体に挿入した。ここで問題発生。スプールが奥まで入り切らない。何かがつかえている。何だ?
改めて左カップの内側を覗いてみた。そして私は自分のミスに気付いた。スプールの回転をレベルワインダーに伝達するギアとそのネジの存在を見落としていた。それが大きくスペースを狭めていた。
とりわけネジだ。頭がすごく大きく、高さがある。
これは設計を修正しなければならない。私は自分の愚かさに溜息をついた。
再設計
ネジの頭はタービンの外周部に当る。タービンが効率よく働く一番重要な部分だ。したがってタービンの直径を小さくすることによってこの問題を解決することはできない。ということは、タービンを薄くしなければならないということだ。
しかし、ブレードの幅を狭めたくはない。そんなことをすればブレーキ力が弱くなる。ではどうするか? 材料を変更するしかない。1mm厚のベーク板ではなく、もっと薄い素材。そう、スーパーの惣菜売り場の弁当の容器のふたなんかがいい。厚さはコンマ何ミリというごく薄いものだ。
それでもブレードの幅は多少狭くせねばなるまい。それでいてブレーキ力を維持するためには、ブレードの形状をもっと煮詰めなければならない。幸い新たな材料には柔軟性がある。もっと凝った設計ができそうだ。
ここで考察である。目的は効率の良いブレーキである。そのためにこれは効率の良いタービンである必要があるのか、それとも効率の悪いタービンである必要があるのか?
極言すれば、ブレーキはエネルギーを浪費するためのものなので、効率の悪いタービンの方がエネルギーを無駄にできて、ブレーキとしては強力だと、最初は思った。しかしそれは誤りだ。エネルギー保存の法則に基づけば、エネルギーは無駄にはならない。形を変えるだけだ。スプールの回転運動から、空気分子の運動へ。それを仲介するタービンは、当然効率よく働かなければならない。つまり、スプールの回転エネルギーを効率よく空気の運動エネルギーへと転換することが、効率の良いブレーキなのだ。
とすると、ブレードの設計はどうなる? 空気の運動エネルギーは、空気の量と運動速度(の2乗?)に比例する。タービンの直径が同じなら空気の量は同じなので、できるだけ強い風を起こすタービンがいいということになる。
ところで、タービンが空気を運動させる原理は2つだ。ひとつは遠心力。もうひとつはブレードの角度による・・・何と呼ぶのか知らないが、とにかく「角度で弾き飛ばす力」である。この2つの検討から始めよう。
遠心力
まずは遠心力だ。下の図は回転するタービンブレードだ。空気では目に見えないので、インクに置き換えてみよう。その滴は遠心力で外側に振り飛ばされる。その角度はA:中心からまっすぐ外側、B:円の接線、のどっち?
遠心力と言うからにはAだろうと思ったのだが、よく考えればBだとも思う。昔、FFのレビンで峠道をすっ飛ばした時、コーナーで曲がり切れずに膨らんで、外側の藪に刺さったことがあるが、確かにBの軌跡を描いたのだ。その経験から、物体は遠心力から解き放たれると、慣性の法則に従って・・・。ええい、考えるのが面倒だから実験してみた。
やっぱり正解はBだ。このことから何が言えるのか? 遠心力で振り飛ばされた空気分子は、タービンの外周の回転速度と同じ速度で、接線にそって運動する。ところで、タービンの直径は38mmで、スプールの直径と同じだ。ということは、タービンから発射された空気は、ルアーの飛翔速度と同じ速度をなすのだ。
××力
この力を何と呼ぶのか知らない。団扇で扇いだり、扇風機で送風したり、魚がヒレで泳いだり。要するにブレードの角度によって空気や水を弾き飛ばす力だ。
その角度は何度がいいのか。ずばり45°だ。この角度で、ブレードが回転する速度と、空気が放射状に弾き飛ばされる速度が、等しくなる。
これも考察してみよう。上の図で、Aは回転方向に対してブレードの角度は90°だ。これでは傾斜がないので、空気は遠心力で振り飛ばされはするが、ブレードはファンやプロペラのような役割は果たさない。Bでは、円周部で45°の角度を設けても、中心部では傾斜が寝てしまう。そこでCのようにブレードを湾曲させれば、円周部はもちろん、中心部でも傾斜が維持される。
ところで、Cのようなブレードでは遠心力は発生しないのだろうか? そんなことはあるまい。空気の回転も生じるはずだ。とすると、Cのようなブレードの形状なら、接線上に空気を振り飛ばす遠心力と、放射状に空気を押しやるファンの力が同時に働いて、効率の良いタービンになるのではないだろうか?
これで、ブレードの形状は決まった。
スペースの拡大
次に、カップ内のスペースをできる限り拡大しよう。タービンが収まるのを邪魔しているのは、ギアとネジだ。ギアは必要な機能を担っているので、手を付けることは避けるが、ネジはそのギアを留めているだけのものなので、大きすぎる頭を削って、低くすることが可能だろう。
ネジにはマイナスの溝が刻んであるのだが、頭を削ってこの溝が消えてしまうといけないので、まずは金鋸でこの溝を深くする。そしてヤスリで頭を平らに削って、できる限り薄く低い頭にした。
これにより約4mmの奥行きを確保した。すなわちブレードの幅を4mmにできるということだ。
ブレードの作製
材料を弁当の容器のふたにしたので、手軽にカッターやハサミで切り抜くことができ、作業はすこぶる楽だった。問題はいかにして材料同士を接着するかだったが、表面をサンドペーパーで荒して、アロンアルファで強固に接着することができた。
ブレードの幅は4mm確保したが、まだこれでは心もとない。外周部にネジの頭があり、それを極力低くしてスペースを稼いだわけだが、中心部にはもっと奥行きがある。そこでタービンブレードを2階建てにすることにして、ブレードの幅は同じ4mmではあるが、直径が少し小ぶりのブレードを上に載せた。
これでブレードの幅は併せて8mmとなった。これだけの空気を抵抗とするなら、ブレーキとしてそこそこ働いてくれまいか。さっそく実験してみた。
タービンとしては、まったく正常に機能した。
完成
これでタービンが完成した。それをリールに組み込んで、問題なく回転することも確認した。
残る問題は、タービンとして正常に機能することが、実釣における適正なブレーキ力を実現するかどうかだが、これはフィールドに持ち出してテストしてみるしかない。次の休日、今度こそ、いよいよフィールドテストだ。