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プランB

 プランBとして想定しているアプローチは、かつて2500Cで挑戦し、十分な効果を得られなかった方式だ。スプール左側面に直接タービンブレードを張り付けるのである。それは実釣で使ってみると、ブレーキ力が若干弱く、ちょっと気を抜けばバックラッシュするような、ピーキーな性格だった。
 なぜ満足のいくものに仕上がらなかったか、理由ははっきりしている。下の写真のように、スプールに対して、タービンブレードが小さすぎたのだ。

2500Cのタービンブレード

 ではなぜそのような小さなブレードにしたのか? もっと大きくできなかったのか? スペースの制約を受けて、そうせざるを得なかったのだ。1500Cと2500Cは、スプールの両端を土手で覆われている。この土手は密閉されており、その底面にボールベアリングが装着されている。この狭くぎりぎりに限られたスペース内で、タービンブレードが回転する領域を確保するしかなかったのだ。

2500Cスプールの土手

 そしてこのスペースの制約は、空気の循環をも阻害した。タービンが排出した空気が還流し、運動の方向を変えて再びタービンに戻ってくるようには、できなかったのだ。空気は閉ざされた空間内でただ回転するだけ。遠心力は働くが、その先の空気の動きを生み出すことができなかった。このことも、十分なブレーキ力を得られなかった原因に加えられるだろう。
 しかし、5500Cでは、事情が異なる。5500Cにもスプールの土手はあるが、それはフレームのプレートと一体であり、スプールエッジを覆っているだけで、カップ側は密閉されていない。ということは、カップ内のスペースで空気の循環が実現できるのだ。

5500Cスプールの土手

組み込み方法

 では具体的に、どのようにしてスプール左側面にタービンブレードを張り付けるのか? 接着剤でべっちょり? いや、ちゃんとユニット化して、スマートに取り付けよう。
 5500Cのスプール左側面には、樹脂製の白い2段ギアがスプールシャフトに挿しこまれている。先の小さい方のギアは、サイドカップ内側のギアを介して、レベルワインダーを駆動するためのものだ。では根元の大きなギアは? 実は5500Cではこのギアは何の機能も果たしていない。6500Cでスプールが回転した時にクリック音を鳴らすラインアラームのためのものが、6500Cとのパーツの共有化で、ラインアラームのない5500Cにも使われているだけだ。

5500Cスプールの左側面のギア

 何の機能も果たしていないのなら、削り取ってそのスペースをタービンに使えばいい。ところがそうもいかないのだ。この樹脂製のギアはCリングでスプールシャフトに固定されているだけなのだが、ギアをシャフトから外してみると、根元の大きなギアの内部でスプールシャフトの平面と噛み合うようになっているので、根元のギアをそっくり削り取ってしまうと、先の小さいギアが空回りしてしまう。

ギアの取り外し

 とすると、大きいギアの歯だけを削り取って、直径を小さくし、その分スペースをかせぐのがいい。

タービンの作製

 タービンユニットの材料は、プランAと同じ、1mm厚のベーク板である。これを、あらかじめ設計した形状と寸法のパーツとして切り取る。

タービンのパーツ  

 組み立ては、瞬間接着剤による貼り付けである。ベーク板に瞬間接着剤が有効なのは、すでに確認済みだ。

組立

ブレーキ力の調整原理

 このプランBにおいては、中心部の空気吸入口の開閉によって、ブレーキ力を調整できるようにする。
 下の写真は、空気吸入口を開放した状態だ。

全開

 空気吸入口を全開にすると吸入される空気量が増え、タービンによって空気に伝えられる運動エネルギーが増える。そのエネルギーの源は、直接的にはスプールの回転エネルギーだから、より多くの空気に運動エネルギーを与えることは、スプールの回転に対してより強くブレーキを掛けることになる。空気吸入口全開が、ブレーキ力MAXだ。
 かたや、空気吸入口を遮蔽すれば、タービンへの空気の流入はなくなり、タービン内は負圧となり、空気抵抗がなくなる。それがブレーキ力MINだ。
 下の写真のように、回転スライド弁が閉じることによって、空気の流入を遮断する。

遮蔽

 おそらくは、最適なブレーキ力は、MAXとMINの中間の、下の写真のような状態となるであろう。いや、逆だ。そうでなければならないのだ。そうでなければ、調整弁の意味がない。

最適

軌道修正

 私の懸念は、その点にこそあった。この調整弁、全開にしたところで、ブレーキ力が弱すぎるのではないか?
 なぜかと言うと、回転スライド式の調整弁の特質上、調整幅が最大でも全周の半分しかなく、この設計では開度0〜50%としているのだが、必要なブレーキ力は50%の開度で足りるのか? と思うからだ。
 ここにジレンマがある。開度50%が心もとないなら、調整幅を例えば40〜70%や60〜80%とすることはできる。しかし、MAXの開度を確保しようとすればするほど、調整幅が狭くなってゆくという法則があるのだ。それでは、わざわざ調整弁を設ける意義がない。
 数式で表せば、こうだ。
 100%−MAX=MAX−MIN
 ここが思案のしどころだ。最大でも開度50%のタービンでは、ブレーキ力が弱いに違いない。どの道このプランBでは、カップに穴でも開けない限り、リール外部からはブレーキ力を調整できない。いちいちカップを開け、スプールを外してブレーキ力を調整するなど、現実的ではない。だったら、調整などできなくてもよい。
 そう考えて、調整弁は設けず、100%オープンで行くことにした。

最適

機能の確認

 ここで、タービンブレーキが思ったように機能するのかどうか、確認のために実験してみよう。
 原理はこうだ。タービンブレードが回転し、遠心力およびブレードの角度によって、タービン内部の空気を外周部に弾き飛ばす。その後へ、タービン中心部の空気吸入口から、タービンブレードの回転面と直交する角度で、新しい空気が供給される。こうして空気の循環が、90度の角度を介して、発生する。そのとき空気分子に運動エネルギーが伝えられ、タービンブレードに対する反作用が生じる。これがブレーキとなって、スプールの回転速度を落とす。
 したがって、タービンがちゃんと空気を吸い込んでいることが確認できれば、タービンブレーキの原理は機能していることになる。下の動画は、その確認のために、タービンをモーターで回転させ、口に含んだタバコの煙をストローで吹き付けてみたものだ。

 この実験によって、タービンブレーキの原理がちゃんと働いていることが確認できた。しかし、そのブレーキ力が適正かどうかまでは確認できない。弱すぎないか、強すぎないか。それはフィールドで実際にキャストしてみなければわからない。
 先はまだ長い。フィールドテストを繰り返しながら、ベストなセッティングを煮詰めてゆかなければならない。

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