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プレートの作製

 タービンはカップ内に収まる大きさでなければならない。とすると、どうしても大きさが限られる。直径がスプールよりもかなり小さくなり、厚みが薄いものになる。その分空気抵抗が小さくなるので、回転速度を増すことによって、発生するブレーキ力を増幅しなければならない。そのためには、ギアを使って、タービンの回転を増速する必要がある。
 ギアを使うとなると、シャフトが必要であり、シャフトを立てるためのプレートがなくてはならない。そのプレートの材料は、1mm厚のベーク板を用いる。ベーク板とは、紙をフェノール樹脂で固めた(ベークライト)、電子回路等の基盤に使われることの多い、樹脂製の板である。工作用に安く売っているので、入手が容易だ。

ベーク板

 まずは、カップ内に存在するスペースに合わせてプレートの形状を作り、第1のギア用にシャフトの位置を決める。
 動力は、ギアの配置の都合で、スプールから直接ではなく、レベルワインダー用の中間ギアから得ることにした。
 最初のシャフトの位置さえ確定できれば、あとは同じプレート内でのギアの噛み合わせになるので、次々とシャフトの位置が決まってゆく。最初のシャフトの位置決めだけ、少々てこずった。

プレート

ギア

 ギアには規格があって、歯の大きさを合わせないと、スムーズに回転しない。ところがアンバサダーに使われているギアの規格が、市販のギアと微妙に合わない。
 ギアの規格はモジュール数で表される。市販の汎用ギアのモジュール数は、0.5刻みだ。通販で購入したポリアセタール製ギアは、確かモジュール数は0.5だったと思うのだが、おそらくアンバサダーのギアは0.75か、もしくはそもそも単位がmmではなくてinchなのかもしれない。
 しかし、この問題の解決は簡単だ。だったら、最初のギアにアンバサダーのギアを加工して使えばよい。使用したのは、レベルワインダーの中間ギア、すなわちカップ内に位置する、クレストマークの裏側に装着された白い樹脂製ギアだ。

アンバサダーの樹脂製ギア

 この2重のギアの大きい方を削り取り、内側の小さいギアだけを使った。
 それと、購入した市販のギアを組み合わせる。

市販の汎用ギア  

ギアは、単独で使用したり、大小2枚を貼り合わせたりして、次々と配置した。下の写真の状態で、2カ所での増速を行っている。この写真では、まだタービンは作っていない。白い樹脂製の円盤に、マジックでブレードの絵が描いてあるだけだ。

工程

ブレーキ力の調整原理

 タービンの空気吸入口のパイプを、何らかの方法で絞り、吸入する空気量を変化させることができれば、ブレーキ力が調整できる。タービンは空気に運動エネルギーを伝えるわけだから、その対象となる空気の量が増えれば、より多くのエネルギーを消費し、ブレーキ力が増すことになる。そこで下のイラストのような仕組みを考えた。

空気量調整原理

 パイプの栓を、上のイラストのように円錐形に作れば、徐々にパイプは閉じてゆく。完全に開放された状態から、完全に閉じた状態まで、空気の流入量を調節する幅ができる。
 このような仕組みにするためには、当初の設計通りにタービンのハウジングを作り、下のイラストのように、空気流入量を調節するためのパイプが伸びていなくてはならない。

タービンユニットの空気吸入パイプ

 ところが、そのスペースがどうしても確保できない。カップ内のスペースは、いくつものギアを配置するだけで精いっぱい。これから円盤にブレードを接着してタービンにし、それをハウジングで覆い、そこに空気吸入口を設け、パイプをつなぐ。一体どんな微細で精密な工作が必要となるのか。そんなの無理だ。
 これは困った。

行き詰まりとプランB

 実は、私の直面する本当の問題は、上述のスペースの問題なんかではなかった。もっと根本的な問題が存在していた。それが下の動画だ。

 連動するいくつものギアから生じる摩擦抵抗が大きすぎるのだ。動画の状態ではまだタービンは備えていない。本来ブレーキとしての機能を担うはずの空気抵抗がないにもかかわらず、この回転の重さだ。とてもこんな状態でキャスティングなどできない。
 ギアが多すぎるのか? もっとギアの数を減らせばいいのか? そんな問題ではない。ギアによってタービンを回そうという発想そのものが間違っているのだ。ギアなど1個たりとも使ってはいけない。
 ではどうすればいいのか? プランBはちゃんと考えてある。スプールに直接タービンを取り付ければいいのだ。その代り、ダイヤルやレバーなどによって、リールの外部からブレーキ力を調整することはできなくなる。それがゆえにプランBなのだ。
 もっと言えば、かつて十分な成果を得られなかった2500Cのタービンブレーキが、スプールに直接タービンブレードを貼り付けるものだったのに対し、5500Cではカップ内に独立のブレーキユニットを備えさせ、その成功を基に、2500Cにフィードバックしたいという野心もあった。これで2500Cのタービンブレーキの改良の望みは潰えた。2500Cは遠心ブレーキでいくしかない。
 では、2500Cでダメだった方式が、なぜ5500CではプランBたりえるのか? それは5500Cの左カップ内、スプールエッジの左側面には、2500Cと違って、十分な空洞があるからだ。

水平線
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