順テーパー巻き形状の原因
なぜ、私のカーディナル33は、こんな巻き形状になるのか?
スピニングリールではスプールが上下にスライドすることによってラインが均等に巻かれる。本来、スライド幅はスプールの幅と一致するはずだ。それと同時に、スプールの位置がラインローラーと合致していなければならない。すなわち、スプールが下に下がりきった時には、スプール上端がラインローラーの位置にあり、スプールが上がりきった時には、スプール下端がラインローラーの位置になければならない。
スライド幅とスプール位置とが適正かどうか、その組み合わせを思いつく限り類型化してみると、スプールの巻き形状は下図のようになるだろう。
A:スライド幅は適正だが、スプール位置が上すぎる。その結果、スプール上部に薄く、下部に厚く巻かれている。
B:スライド幅は適正だが、スプール位置が下すぎる。その結果、スプール上部に厚く、下部に薄く巻かれている。
C:スライド幅が上下両方向に不足している。その結果、スプールの上部と下部に薄く、中央部に厚く巻かれている。
D:スライド幅が上下両方向に大きすぎる。その結果、スプールの上部と下部に厚く、中央部に薄く巻かれている。
E:スライド幅が下方向に不足している。その結果、スプール上端だけ薄く巻かれている。
F:スライド幅が上方向に不足している。その結果、スプール下端だけ薄く巻かれている。
G:スライド幅が上方向にだけ大きすぎる。その結果、スプール下端だけ厚く巻かれている。
H:スライド幅が下方向にだけ大きすぎる。その結果、スプール上端だけ厚く巻かれている。
I:スライド幅が適正で、スプール位置も適正。その結果。スプールに均等に巻かれている。
私のカーディナル33の症状は、上のどれに当てはまるか? Aである。すなわち、スプールのスライド幅は適正だが、スプール位置が上すぎるのである。これを是正すれば、巻き形状はIへと改善される。いや、せっかくだから、Iよりも心持ちBの状態へ持って行きたい。
チューニングの方法
この問題の解決には、2つの方法がある。スプール位置を下げる方法と、ローター位置を上げる方法だ。ネット上では、ローターの下にワッシャーを入れて、ローター位置を上げる方法が多数を占めている。少数の人は、スプールシャフトを加工することによって、スプール位置を下げている。
それぞれに長所と短所があるようだ。ローター位置を上げる方法は、ワッシャーの追加で済むため、オリジナルパーツの形状変更を伴わない長所がある半面、ベイルのリターンに関係するパーツの噛み合いが浅くなるため、もしかすると耐久性に影響するかもしれないという短所があるらしい。かたやスプール位置を下げる方法は、パーツの耐久性の低下に関する懸念は皆無であることが長所である反面、オリジナルパーツを削っての形状変更を伴うという短所があるようだ。
私はスプール位置を下げる方法を採用する。ただしスプールシャフトを削ることによってそれを実現するのではなく、ほかの方法によって実現する。
カーディナルのカバーを開けた上の写真に、湾曲した金属パーツが見える。ギアの回転運動を、スプールシャフトの往復運動に変換するための、コンロッド(接続アーム)である。私が目を付けたのはこのパーツだ。このパーツの長さを少し長くしてやれば、シャフトごとスプールの位置が下がると踏んだ。
もっとも、このやり方は私が考案したのではない。確か、ネット上のミッチェルとカーディナルのチューニングの第一人者が、ここに目を付けたものの、このパーツの破損を恐れて途中でやめた、と記されてあったはずだ。私はそれに挑戦する。
観察
さて、このパーツを伸ばすことによってスプールシャフトの位置が下がるだけのスペースが、シャフト先端とハウジング内側の間にあるのだろうか?
大丈夫だ。シャフトが下がり切った状態で、ハウジングとの間に、2mmほどの隙間が空いている。
では次に、スプールの位置が下がった時に、スプールの底面がカップ内のナットと接触しないだけのスペースがあるだろうか?
これも大丈夫のようだ。スプール底面の切れ込みに噛み合うシャフトの横バーと、カップ内のナットとの間に、同じく2mmほどのゆとりがある。
そのことが確認できたので、実行に移そう。
作業方法
コンロッドは、ギアに対しても、シャフトに対しても、Eリングで固定されている。まずはそれを外す。材質を確かめるために強力な磁石を近づけると、かすかに反応した。そこで材質はステンレスだと判断して、安心して作業に取り掛かかることにした。(後でわかったことだが、削ってみるとメッキを施した真鍮だった。ニッケルメッキなので磁石に反応したのか?)
さて、どうやってコンロッドの寸法を伸ばすのか? 大きく湾曲しているのを、背中側からハンマーで叩いて、湾曲を浅くするのである。原始的なやり方ではあるが、プレートが曲がったりねじれたりせず、平面を保ちながら、ただ湾曲を浅くすることができるように、治具を使って慎重に作業した。
動画にはハンマーで叩く様子しか記録していないが、少し叩いてはリールに装着してラインを巻き直し、また取り出してハンマーで叩くという作業を、実に1日がかりで何度も繰り返した。その結果、徐々にライン形状は改善され、どうにか理想とするところまで持って行くことができた。
しかし、問題も発生したのだ。あと少しというところで、最後にもう少しだけ叩いた。結果としてコンロッドの長さは3mmも伸ばすことになった。1mmぐらいでいけるだろうと踏んでいたのは大きな間違いだった。しかし3mmも延長したら、スプールシャフトの後端がハウジングに当ってしまうのだった。
そこで、スプールシャフトの後端1mmを削った。
これによりスプールシャフトがハウジングと当る問題は解決できた。ただし、まだシャフトはハウジングに接触している。しかしそれはあまりにも軽い接触で、ハンドルに伝わるショックは皆無なので、これでよしとした。
ところが、スプールを装着してハンドルを回すと、スプールが最も下がった時に生じる引っ掛かりは、まだ若干感じられた。この原因はシャフトの接触ではない。スプールが、ローターとピニオンギアを固定しているナットに接触しているのだ。
そこで、スプールの底面も、若干削る必要があった。
こうして、スプール底面とナットの接触の不具合も解決した。ところが、まだ何かが接触して、ハンドルの決まった位置で抵抗が生じる。ただし今度はスプールが最も下がった位置ではない。したがってシャフトでもスプールでもない。なんだ? コンロッドそのものがなにかと接触しているのか?
わかった。ハウジングのカバーを留めるボルトだ。コンロッドの湾曲が深かった時にはボルトをまたいでいたのだが、湾曲を浅くしたので、ボルトと接触するようになったのだ。やれやれ、今度はコンロッドの内側を1mmほど削った。
これですべての問題を解決した。今、カーディナル33は、私の手の中で、ゴロゴロと機嫌のいい猫のように喉を鳴らしている。そう、昔のリールはみんなこんなふうに、ハンドルを回すとラチェット音がしたのだ。
ABUへの不満
ここまで手を掛けることによって、カーディナル33は、私との絆を深めたと思う。もう他人のような気がしない。いや、まだまだだ。これからもっともっと手を掛けてやる。あんなことも、こんなことも。
しかしね、コンロッドの寸法を3mmも伸ばして、それによって生じる不具合にあれこれ手を加え、それでやっとまともなリールになるなんて、こんなの製造誤差とか個体差とかじゃないよ。設計ミスじゃないのか? ちゃんとフィールドでテストしたのだろうか?
この33、何年の製造か知らないけど、この頃にはすでにABUはおかしくなっていたんだと思う。だから滅んだんだよ。