立体的な整形
今までの作業で、左右、上下、前後のシルエットを作った。したがって現在の形状は、3方向から見れば完成された姿に見えるが、他の方向から見ると平面的で四角い形をしている。これから、その角を落として丸くし、最終的に立体的な形状へと仕上げていく。なぜこのような回りくどいやり方をしているかと言いうと、失敗を避けて出来るだけ確実なやり方で作業を進めたいからだ。一瞬の不注意が、数カ月に及ぶ作業を台無しにしてしまうこともある。そのような事態は何としても避けたい。それと引き換えに工数が増えることは許容しなければならない。
この工程でも前半はやはりノミを使う。それに加え、細部にはカッターナイフも使う。その後、形状が完成したら、サンドペーパーを使って、表面をなめらかにするのだが、サンドペーパーの役割は、ノミの刃跡を消すだけだ。間違ってもサンドペーパーで整形しようなどと考えてはいけない。木には木目があって、削れやすい方向と削れにくい方向がある。硬い木はそれが顕著だ。サンドペーパーで全体を整形しようとすると、左右の対称を崩してしまう。サンドペーパーは表面を滑らかにするためだけに使う。逆に言えば、その直前まではノミとカッターナイフでやっておかなければならないということだ。
表面の研磨
サンドペーパーの番手は、最初に40番、そして100番、最後に400番と、目を細かくしてゆく。それぞれ、前の工程の削り跡を消すことが目的だ。その目的を超えて、目についた粗をサンドペーパーで何とかしようなどと思ってはいけない。
どんなに丁寧に作業したつもりでも、のちの工程の作業中に粗は必ず見つかる。迷うかもしれない。この部分だけもう一度前の工程に戻ってやり直そうか? そんなときはやめておいた方がいい。素人の陥りやすい失敗は「いじり過ぎ」だからだ。「ああでもない」「こうでもない」と、延々といじり回し、結局台無しにしてしまう。ここは、精神衛生上良くないのを承知の上で、ある程度のところで妥協すべきだ。
最後に亜麻仁油を染み込ませて、数日間乾かす。それを何度か繰り返す。動画でもわかるとおり、亜麻仁油を塗った瞬間に木の肌の色が劇的に変わり、透き通った光沢をまとう。そして美しい木目が現れる。亜麻仁油は木の内部まで深く染み込んだように見えるが、実際にはそれほどでもない。ほんの一皮しか染み込んでいない。だから回数を重ねないと効果は得られないんじゃないかと思う。
とは言っても亜麻仁油の役割は、腐食防止のために、水が内部に染み込まないようにすることだけだ。亜麻仁油は酸化して表面に被膜を作るのだが、ここではその効果を期待してはいない。亜麻仁油だけで仕上げるオイルフィニッシュというのも味があっていいのだが、ヘビーデューティーさには欠ける。だから次の工程で木の内部まで樹脂を浸透させるつもりだ。亜麻仁油は念のための下処理に過ぎない。
亜麻仁油は酸化しやすい油で、酸化することで固まる。そのとき発熱するので注意が必要だ。布等に染み込んで空気にさらされると、熱のこもりやすい環境下でなら自然発火することもあるらしい。だから、例えば、夏場に、亜麻仁油を染み込ませた布やティッシュペーパーを捨てるときは、よく濡らしてから捨てる等の注意が必要だそうだ。