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材料の選択

 これからトリガーグリップの作製に取り掛かる。これは通常のロッドビルディングにはない工程だ。擬似オフセットでなくてよいなら、パーツはすべて市販されている。ビルダーのやることは、それを自分なりに選んで組み上げてゆくだけだ。全工程がほんの2、3日で終わるだろう。しかし擬似オフセットのトリガーグリップから自作するなら、そう簡単にはいかない。トリガーグリップひとつ作成するのに数週間は覚悟しなければならない。
 まず最初に決めなければならないのは、どのような材料をもって作るか、ということだ。その選択肢は、私たちのような素人にはそれほど幅広くはない。一般的でないものは入手できないし、それを加工するための大掛かりな設備なども持たない。簡単な道具で加工でき、なおかつ必要な強度を持つもの。となると、それはまずは木材だ。
 ではどのような木材がいいのか。強度が必要だから硬い木がいい。そしてひび割れ等を避けるためには、粘りがなくてはならない。さらに濡れても水を吸わないものがいい。腐朽に強く、長年の使用に耐えるもの。そして最後に、個人でも入手しやすいもの。そのような条件を満たすものの中で、私が選んだのは、北米産のウォールナット材だ。
 同じウォールナットでも、根に近い部分だとさらに材質が密に詰まっている。根杢材というそうだ。銃床に使われるのはこの部分らしい。それは硬く、ずっしりと重くて、粘りがあり、まるでプラスティックのような印象だ。切ったり削ったりすると、その切り口にはなめらかな光沢がある。その代り、加工には苦労する。刃の甘くなった古いのこぎりでは一向に切れないし、新品ののこぎりの刃をもすぐに鈍らせてしまう。削るにしたって、刃の薄いカッターなどでは、刃が負けて食い込んでいかない。下の動画のものがウォールナット根杢材のブロックだ。

 しかし、あるいはもっと加工しやすい柔らかな材質の木を使って、仕上げにニスや漆で硬くコーティングするというやり方もあるだろう。工芸品のような趣があって、それもいいかもしれない。自分の好きなやり方でやればいい。私はタックルの扱いが乱暴だし、コーティングなしの木そのものの肌触りが好きだから、たとえ加工が困難であっても硬い木を選ぶ。
 ウオールナットなら、「木レンガ」や「ウッドブロック」という商品カテゴリーで、適当な大きさの塊を入手することが可能だ。私はここで通信販売を利用している(リンク先は木材のネットショップ http://www.ogo-wood.co.jp/shopping/shopping.html)。  購入に当たっては、必要な寸法ぎりぎりよりも、少し大きめのものを選ぶのがコツだ。なぜなら寸法通りの加工など、素人にはまず無理だから。のこぎりでまっすぐに切る、ドリルで垂直に穴をあけるといった基本的なことが、実際には思い通りにいかない。必ず誤差が生じる。後工程で帳尻を合わせていくしかない。そのためには、寸法に余裕がなければならないからだ。

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