プランB
何かアイデアを考案しなければならないとき、その目的を実現するための、もうひとつの案を考える。A案がダメだった場合のB案。この時点ではどちらが優れているかはわからない。言ってみれば、自分の頭の中でA案とB案を競合させるのだ。そういうやり方で、より良いアイデアを煮詰めてゆく。
前ページではカムによって回転運動を等速往復運動に変換させた。では、ギアによってそれを実現できないか? それがB案である。
まずはこんな仕組みを考えてみた。
ラック&ピニオンを内向きの長方形に配置したものだ。一見して、ラックが最上段あるいは最下段で、一定時間動きが止まっていることに気づく。この時間は、ギアが反対側のラックへと移動するために必要な時間だ。一連の動きを確実なものにするために、スリットが設けられている。
これをスピニングリールのオシレーションに用いたなら、スプールが上下で一定時間停止したとき、そこだけラインが厚く巻かれることになる。しかし、この問題は比較的簡単に解決できる。オシレーション幅を、スプール幅よりも狭くすればいいのだ。その寸法は簡単に割り出せる。
しかしそれ以前に、この停止時間そのものをなくしたい。そして完全な等速往復運動を実現したい。そのためにはどうすればいいのか?
半円ギアへの発展
それは空想上は可能だ。実現不可能な、下の動画のような仕組みなら・・・。
完璧な等速往復運動だ。しかも、その途中に一瞬の中断もない。
さらに、オシレーション幅を完全に制御できる。オシレーション幅=半円形ギアの直径×円周率÷2。オシレーション幅をカーディナル44のスプール幅である15mmにするためには、逆算して、半円形ギアの直径を9.55mmすればよいと計算できる。
しかしこの動きを実現するためのギアが存在しないのだ。なぜなら、ギアの役割に、同時に実現することが不可能な矛盾が生じるからだ。
ギアが噛み合っていないと、最上段の位置でラックが下に滑り落ちる。反面、ギアが噛み合っていると、最上段と最下段の位置で、半月形ギアが回転できない。この矛盾は、ギアに適度な遊びを設けるなどのやり方では、解決できないのだ。
カエルの手ギアへの発展
そこでさまざまに着眼点を変え、アイデアを絞ってみた。その中のひとつが半円形ギアの中心角を180°から狭めて、扇形にしてみたら、というものだった。
しかしそこまで考えたら、ピンときた。昔持っていたミッチェル300番のオシレーションに、こんなのが使われていたのではなかったか? 当時、それを見た私は「これは等速往復運動だ」と感心したのではなかったか?
その300番はもはや手元に現物はないが、写真なら残っているのではないか? 昔のファイルフォルダーを探してみると、そのものずばりを写した写真が見つかった。
そう、これだ。このカエルの手のようなギア。やっと思い出した。なんてこった。∞ツインカムだなんて苦労してひねり出すまでもなく、ここに等速往復運動の解答例があるじゃないか。
その動きをアニメで再現してみると、次の動画のようになる。
すごいぞ、フランス人。私よりも早く、とっくの昔、70年以上前に、もうこんなことを実現していたんだな。恐れ入った。
しかし、その後のリールで、他社も含めて、この機構を採用していないのはなぜなのか? もしかしたら、コストだろうか? それとも、耐久性? あるいは重量?
<つづく>