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ハートカムの発見

 前ページを書いてから1年半が過ぎた。カーディナルのことは忘れかけていた。しかし、サクラマスをアンバサダー2500Cでやるか、カーディナル44でやるかと迷ったことで、カーディナル44の改造が途中で止まっていることを思い出した。
 それでも私の頭は潜在的に∞ツインカムのことを考え続けていたようだ。いきなり閃いた。カムと回転子を逆にしてみたら? つまり、点(回転子)が回転してカムが運動するのではなく、カムが回転して点(シャフト)が運動するようにしてみたら?
 さっそく図に書いてみた。そしてこのアイデアが有効であることがわかった。カムの形はハート形になるのだ。これならば動作に無理がない。下の動画はそれをアニメーションにしたものだ。完全に等速往復運動が実現している。

 このハートカムをさまざまに研究してみた結果、問題点がひとつ浮かび上がった。上の動画がそうなのだが、無理なく動作させようとすると、往復運動の幅が、最大でも、円の半径までなのだ。それ以上の距離を移動させようとすると、カムがねじれて軌道が交差する。すると∞カムと同じ問題に突き当たる。
 円の半径とは、すなわちメインギアの半径を意味する。そして、運動の幅は、スプールの幅を意味する。カーディナル44のメインギアは直径24mm、半径12mmだ。またスプールの幅は15mm(今回は鉄の定規で測った)だ。とすると、どう頑張っても、オシレーションの幅が3mm足りないということになる。

カメムシカムへの発展

 さらに考察を続けた。基本はハートカムなのだが、同じ円上に複数のカムがあって、バトンリレーのように次々と運動を継承することができないだろうか? つまりハートカムの曲線を一部切り取り、それをいくつか複写して、角度差を設けて連続的に配置し、等速往復運動の移動距離を増幅するのだ。そういう発想で行き着いたのが、下のカメムシカムである。

 このカメムシカムにも、制約はある。しかしその有効な幅はハートカムよりはるかに広い。その制約(法則性)を数式で表すと、次のようになる。
 (等速往復運動の移動距離)=(2つの基準円の半径の差)×(半円上のカム断片の数)
 これをカーディナル44に即して言えば、外側の円の半径を目一杯大きく12mm(メインギアと同じ大きさ)、内側の円の半径を9mm、カム断片の数を動画と同じく5個としよう。そうすると、下記の計算式のとおり、等速往復運動の移動距離は、カーディナル44のスプールの幅と同じく、15mmとすることができる。
 (12mm−9mm)×5個=15mm
 ここまで考えて、脳みそが筋肉痛を起こしそうになった。
 で、実際に作製できるのか? こんな複雑な形状の溝(スリット)、あるいは突起(レール)を、いったいどうやって削り出す? いや大丈夫。削り出す必要はない。最近覚えたロウ付けの技術を活かせばいいのだ。針金を曲げて薄板にロウ付けし、それをレールにすればいい。

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