カレント VS ストラクチャー
ベイトタックルを手にしたことにより、ますます私は自分の釣りのスタイルを純化させた。道糸は太めの3号。ハリスは1.75号か、もしくは2号。ベイトリールでもキャストしやすいように、浮きは大き目。ふかせ釣りであるにもかかわらず、錘はしっかり背負わせ、ハリスにもガン玉を打つ。針は親指の爪ほどもある大きさ。それで根際、溝、サラシの切れ目などを狙う。当たりは浮きに頼り、もっぱら目で見てとる。
若い友はその正反対だ。細仕掛けで、錘なし。文字通り仕掛けをふかせ、潮に乗せて遠くまで流す。潮目の辺りで撒き餌と刺し餌を同調させるように意識しているという。彼の浮きは浮力がないので、しばしば潮にもまれて深く沈み、もはや見えないところまで遠ざかる。だから彼は、当たりは竿先でとる。
どちらが優れているかなんて、そんな関心は今はない。まだ初めて1年も経っていないのだから、私自身、これからどんどん変わっていくだろう。なにも今の釣り方が完成されたものではないはずだ。あわよくば、若い友の釣り方も盗んで、身につけたいとさえ思っている。しかしその前に、同時期に一緒に始めたにもかかわらず、お互いに全く違うことを始める個性の現れ方が面白い。彼は勉強熱心だから、最先端の釣りを研究して吸収しているようだが、私は感性の赴くまま、ちょっとした成功体験の積み重ねに導かれて、自然にこうなった。
35cmの壁、突破
ときどき覗いてみるポイントに、足場が低くて波に洗われるので、ウェイダーで立たなければならない場所がある。10月30日。その日は強風が吹いていたが、そのポイントがちょうど風裏だったので、そこで釣ることにした。案の定、うねりはあったが波はなかった。
以前の釣行で、そのポイントに2人並んで入り、私は低い右側、彼は少し高い左側の足場を選んだ。私のさらに右側には沖へ向かって溝が走り、そこから払い出しの流れが発していた。その流れにコマセが効くと、沖の水面で木っ端グレ、カモメ、ウミガメがお祭り騒ぎを繰り広げた。若い友は3桁に迫る大釣りをし、かたや私にはまるっきりヒットがなかった。釣り方の違いと腕の差は、あまりにも大きな結果の差をもたらした。
だから10月30日、若い友が「どっちでやりますか?」というのに対し、私は即座に「右側、リベンジ!」と答えた。今回は沖へ向かって伸びる潮目に気をとられず、足元の溝をよりいっそう徹底して狙おうと心に決めていた。
その結果、数では若い友が勝ったが、夕方の一時、私は30cmオーバーを連発し、最後に36cmを釣ることができた。これでやっと35cmの壁を破り、若い友のもつ37cmの記録に、あと1cmまで迫ることができた。とはいっても、彼の37cmは尾長、私の36cmは口太なんだけど。
上の動画は、36cmを釣る直前で終わっている。大きいのが連発するので、ハリスを1.75号から2号へ替えたところまでしか映っていない。その直後、36cmが釣れたが、ハリスが根ズレでざらざらになり、危うく切れる寸前だった。2号に替えておいて正解だった。その20分ほど前、動画に映っている中に、一発大物に切られているシーンがあるが、たぶんそれも同じくらいのサイズだったのだろう。あるいは、あれは尾長?
名人のアドバイス
海釣りには恵まれた町に住んでいるから、地元にはメジナ釣りの名人が多い。その最高の1人が同じ職場にいる。何人もの釣り好きが職場にいるが、あの人は別格。でももう釣りは引退してしまった。メジナは水産業界では雑魚扱いで、がっかりするほどの安値で引き取られていく。それを知ってばかばかしくなったのだという。でもほんとの理由はそれではないと思う。財布を奥さんに牛耳られて、自分で自分の欲求を封じ込めたに違いない。
その人を私の師匠として、もう一度釣りに復帰してもらおうと思ったが、応じてはくれなかった。その代りに、ときどきアドバイスをもらえるようになった。
「メジナは大きな奴ほど警戒心が強いから、根の際々にいるんだよ。しっかり錘を打って、針をそこへ届かせなきゃダメなんだ。流行りの釣り方もいろいろ試したけど、行きついたのは結局そこだった」と、名人は言った。私はその影響を強く受けている。
36cmを釣ったと、名人に報告した。すると名人は「36? 小さいね」と言った。36cmではやっぱり認めてもらえないのか。40cmを超えなきゃ、ダメなのか。
11月13日には、若い友と二人で、初めての場所で竿を出した。普通こんな場所でふかせ釣りなんかするか? というような場所だった。地層が荒波に洗われて、ギザギザの岩列が海中の没し、波が複雑なサラシを形成していた。ちょっと浅すぎるんじゃないかと思えるが、ルアーでヒラスズキを狙う私たちには、こんな場所でも抵抗がない。
このような場所は私向きだ。36cmのサイズ揃いで、何枚か釣った。
不思議だ。あんなに苦労させられた35cmの壁なのに、一度超えると、そこにはもう別世界が広がっている。35cmクラスが普通に苦もなく釣れてしまう。成長とか上達って、そういうものなのか? それともこれは季節のせいなのか?
40cmの壁、突破
もうすぐ寒グレのシーズンがやってくる。メジナをやり始めて初めての年だから、目の前には常に未知の世界が広がる。寒グレって、どんな釣り方をすればいいんだろう? 私の釣り方でいいのか? それとも若い友のような釣り方でなければダメなのか?
ここ何度かの釣行で、若い友は絶好調だった。35cmを超えるメジナ、50cm近いクロダイ。めぼしい釣果はすべて彼があげた。私はそれを動画に撮影し、DVDにして、プレゼントし続けた。
12月11日。縦横に溝が走っているなだらかな低い磯。二人で溝を渡って、孤立した岩に乗った。ここは溝が深いので、めったに人が入らない。若い友はその真ん中に陣取って、沖の潮目を狙った。私は右端から溝の出口へ投入した。魚の反応は非常に渋かった。釣れない時間が延々と続いた。寒グレってこんな感じなのか? もはや夕マズメにかけるしかなかった。
午後4時を過ぎ、日が傾きだすとようやく釣れ始めた。でもそれは手のひらサイズでしかなかった。若い友は根掛かりでごっそり仕掛けを失った。もはや仕掛けを作り直して、再スタートするような時刻ではなかった。彼は竿をたたみ始めた。私はあきらめムードの中、もう浮きが見えにくくなってきたので、遠くの溝の出口ではなく、対岸に向けてひょいと投げた。そこは波が岩を乗り越えて、サラシが広がっていた。そんなに深くない。2ヒロないぐらいだ。
こう薄暗いと、老眼のため目がよく見えない。浮きを見失った。竿を少し立てて、仕掛けがどこにあるのか探した。そのとき竿先にずっしりと重みを感じた。食ってる。慌てて竿を立てた。魚が走った。メジナ特有の底にへばりつくような重い引きではなかった。魚は溝の出口めがけて中層を走った。なんだ、ボラか? 少しぞんざいに竿を立てたら、もんどりうって魚の姿が海面に飛び出した。真っ黒の、いいサイズのメジナだった。私の目には30cmぐらいと映った。
取り込みにずいぶんてこずった。暗いせいなのか、身体の自由が利かず、魚を思うように誘導できなかった。私自身磯を転げまわるようにして、ようやくずり上げることができた。若い友が背後に立ち、「でかい! 40あるっしょ」と言った。それはないでしょう。私はまだ自分がなぜそんなにてこずったのか、わかっていなかった。若い友がメジャーを当てた。「43、いや、44。えーっと、やっぱり43!」と目盛りを読んだ。私は驚いた。そんなに大きかったのか?! そうか、薄暗いせいで、魚のサイズを見間違えていたのだ。
天に向かって拳を突き上げた。「うぉーっ」と叫んだ。こうして私は不意を突かれたように、無自覚に40cmの壁を越えた。でも、もっとじっくり味わいながら釣りたかったな。最初、ボラかと思ったよ。しかも浮きが沈んだのに気付かなかったし。
職場の名人に報告すると、「お、頑張ってるねぇ」と言ってくれた。釣道具屋で話すと、「45超えたら持ってきてください。魚拓を取りましょう」と言われた。そうか、次は45cmか。
<つづく>