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素材の調達

 こうなったら、磯のふかせ釣りをベイトタックルでやるしかない。しかしそんな竿はどこにも売っていない。作るしかない。ちょうど真夏の炎天下、磯釣りは休止だ。この期間中に完成させよう。
 問題は2つなのだ。通常の磯竿だと、リールシートの位置がスピニングリールに最適化されているため、グリップが短すぎる。なぜならベイトリールの場合、リールの少し後ろ側を握るからだ。だから10cm程度リールシートを前に移動しなくてはならない。そしてパーミング時に、直径2cm程度のロッドブランクを直接握るのは細すぎて、力がはいらない。そこで、もう少し太いグリップを取り付けなければならない。どうせなら、擬似オフセットのトリガーグリップを。
 作るといっても、ブランクを手に入れて一から作るわけではない。磯竿用の振出ブランクなど、さすがのマタギにも売っていない。だから元になる磯竿を買って、それを改造するのだ。幸い、磯竿は振出式なので、ガイドが竿の上下どちらかに位置するかは関係ない。継ぎ目をねじればそれでこと足りる。それどころか、少しずつねじって、スパイラルガイドにすれば、もっと具合がいい。ルアーロッドと違って、振出の磯竿の場合は既製品の改造のほうがやりやすい。
 ただし、そのためには下の写真のような、グリップが土台に埋め込まれたタイプではダメだ。剥がすのに苦労する。もっと安物の、金属プレートが糸で巻きつけられただけのタイプがいい。

レジェンダー

 アドバンスがまさにそのような竿だった。しかし私のアドバンスは穂先が折れただけではなく、仕舞うときに頭にきて乱暴に扱ったら、穂先の次の2番も折れた。理由はわかっている。その前に一度クロダイの団子釣りに使ったからだ。団子の中に混ぜた砂が竿に付着し、よく洗わずにそのまま縮めたり伸ばしたりしたので、砂粒がブランクを傷だらけにしてしまったのだ。こうなると、修理代が購入金額を上回る上に、他の各部も傷だらけ。だったらいっそ新品を買った方がいい。
 なに、同じアドバンスをもう一度買えばいいのだ。素材としてはあれで十分、間違いはない。ところが釣り道具屋ではアドバンスは売り切れだった。私が買った後、入荷していなかったのだろう。そこでもう少し遠出して、より大きな釣り道具屋へ行ったのだが、そこでも売り切れだった。アドバンス、人気なんだな。
 仕方がないので、ダイワの同じクラスの竿を買った。インプレッサ、1.25号の5.3mだ。正確にはシマノのアドバンスの対抗商品ではなく、もう一つ上のクラスになる。決して悪くない竿だった。なによりインプレッサのいいところは、ガイドに少し高級なものを使っているにもかかわらず、リールシートには金属プレートの安物を使っていることだ。

インプレッサ

ベイトモデルへの改造

 まずはリールシートを外す。糸で巻いてあるだけだから、糸を解けばすぐとれる。

リールシートの外し方

 今回は試作品であり、ふかせ釣りをベイトタックルでやることが可能かどうかの検証用なので、あまり作り込みに時間をかけることはできない。外したリールシートをそのまま再利用することにする。ただし、前後は逆にしなければならない。元は後ろから締める形だったが、後ろにはトリガーグリップを装着するのだから、前から締めるように変更する必要があるのだ。
 また、トリガーグリップは、ブロックからの削り出しではなく、簡単に左右貼合わせで作る。ホームセンターで端材の木切れを安く買ってきて、手早く作った。

パーツ

 ついでに、フロントとリアに糸で厚く巻いたグリップを設け、色を塗った。イメージは漆の朱塗りだ。
 リールはアンバサダー1500Cから始める。ロープロファイルのリールでは、リールの前部が低すぎて、プレート式のリールシートを前から締めることができないのだ。しかし、その問題をなんとか解決して、いつかはロープロファイルリールを導入したいと考えている。1500Cはギア比が低いうえに、いつピニオンギアが削られてしまうかわからないからだ。

完成

検証

 9月24日。私が今年から磯釣りを始めたと知った会社の同僚が、2回目の釣りに誘ってくれた。互いに釣り好きだと知りながら、彼は私のことをヒラマサ等の大物狙いが専門で、磯の上物釣りには興味がないと思っていたのだ。実際、その通りだった、去年までは。ところが私が今年から初めて磯釣りに手を出したと知って、6月に一度、彼はとっておきのポイントに誘ってくれたのだ。とっておきと言っても、彼の家の前の磯なのだが。
 6月に釣った時には、私たちはそこで大いに苦戦した。手のひらサイズのメジナしか釣れなかった。ところが同僚はその後そこでシマアジを大釣りした。話には聞いたが、シマアジと聞いても私はぴんと来なかった。漠然といつか私も出会えるかなと思ったぐらいだった。
 2回目となる今回も、そのポイントだった。私は喜んで誘いを受けた。もしかしたらシマアジが釣れるかもしれない。そこは大きな岩が点在し、縦横に溝が走る、私向きのポイントだった。そのとき私は初めてベイトタックルでの磯釣りに臨んだ。その有効性を検証するのだと、私は意気込んだ。
 しかし結果は少々拍子抜けだった。構えるまでもなく、磯釣りでベイトタックルは普通に使える。ダイワのインプレッサはシマノのアドバンスに劣らないいい竿だったし、スパイラルガイドは実にいいアイデアだ。1500Cは遠心ブレーキであるうえに、シンクロナイズドレベルワインダーなので、バックラッシュの心配が全くなかった。そしてベイトリールなら、道糸の撚れが全く生じないので、穂先への糸絡みは一度も発生しなかった。
 釣果的には、その日、生まれて初めてのクロダイを釣った。しかも、小さいのと大きいのの2枚だ。写真は小さい方だが、大きいのは45cmほどで、けっこうな引きを味わえたが、ベイトリールでのやり取りに不安は微塵もなかった。

黒鯛

 2回目のテストは、10月1日だった。この日は単独釣行で、溝の出口の小高い岩に陣取り、沖の沈み根を乗り越えて波が押し寄せてくるポイントを選んだ。この頃の私はまだ、流れが沖から手前に押してくる場所では、撒き餌が効かずに釣りにくいのだということを理解しておらず、こういう場所を平気で選んで釣っていた。
 それでも私は、このとき、意外に早く、シマアジと相見えることができた。しかもたくさん。大きなメジナは釣れなかったが、タックルのテストとしては上々の結果だった。

こうして私は自信を深めた。ひとつ。もう穂先は折れない。ふたつ。このままベイトタックルで、どこまでもやっていける。

水平線
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