3年以上かかって作ったボートが、海上のたった20分で航行不能。それでも私の心は挫けない。そのたった20分で、実に多くのデータを得ることができた。
失敗とは、とりもなおさず、半ばの成功である。重要なのはその失敗を総括し、そこからできる限りを学ぶことだ。その経験を活かし、「次」にチャレンジするために。
おい、おい。「次」って、まだやるのか? そう、そのとおり!
コンセプトの誤り
ボートの自重100kg。それがゆえの鈍重な船足。最高速で時速4km。その結果として大して沖に行けず、岸近くで航行不能になったことは、不幸中の幸いだった。無理して沖に遠出し、そこで航行不能、100kgもの船体を引きずってパドルで帰ってこなければならなかったとしたら、とても無事では済まなかっただろう。
しかし、はるかに軽い船体を実現することができれば、船足が軽快になって遠出もできるし、沖でアクシデントがあったとしても、パドルで帰ってこれる。ただしその場合のパドルは、もっと漕ぎやすいものに改良しなければならないが。
では、そもそもなぜ私は、100kgもの重いボートを作ることになったのだろうか? それは未知の領域への恐怖のためだった。沖に出れば波があって、風もある。ボートは相当揺さぶられるだろう。頑丈なボートでなければ破壊されるかもしれない。遭難は絶対に嫌だ。だからとにかく頑丈な船体を。ところが皮肉なことに、頑丈で重いボートでは、そもそも非力な人力で沖に漕ぎ出すことができない。ここに最初から矛盾があったのだ。
今や私は経験によって、100kgは重すぎるのだという基準を得た。そして性能のバランスを学んだ。軽いボートでなければ沖へは行けない。あるいは沖で機関部に何か損傷があった場合に、軽いボートでなければパドルで帰ってくることができない。軽いことが優先。次に丈夫さ。この丈夫さは、あくまでも軽さの枠の中での、最大限の追求。もしくは私の中での技術革新だ。
技術上の誤り
シャフトとギアの固定が外れて空回りするというアクシデントは、実は今回が初めてではなかった。以前にも同じ経験があった。そこで今回は接着面積を思い切り大きくする、あるいはシャフトに幾条もの切れ込みを入れて接着がはずれないようにするといった改良を施したのだが、無駄だった。
問題は接着に頼ったことそのものにある。おそらくは回転の摩擦熱の影響で、私の想像を超えた問題が発生しているのだ。だからシャフトとギアは、接着ではなく、構造的あるいは物理的な方法で固定しなければならない。その方法とは、ギアとシャフトに回転軸と直交する穴を開け、ピンあるいはボルトで留めるという、当たり前のものだ。
こうすれば、ギアの空回りというアクシデントは、今後絶対に起こらなくなる。
駆動レイアウトの確信
舵はスクリュープロペラの直後でなければならない。そしてスクリュープロペラは船体後部でなければならない。
このことは、経験してみるまで気づかなかった。今回のボートでは実際にスクリュープロペラを後部に配置しながらも、「しかし本当は推進装置は前にあった方が小回りが利いていいんだけどな」と、ずっと思ってきた。それには理由があった。想像してみればわかる。ノートに大きく8の字を描く。消しゴムを後ろから押してその8の字をなぞるのと、前から引いて8の字をなぞるのと、どちらがやりやすいか。断然前から引いた方がやりやすい。
ところがボートの場合は、スクリュープロペラを船体前部に配置した場合、プロペラが発生させた水流を舵で方向づけても、その水流が船体に当たれば反作用が生じて、旋回の力が打ち消されてしまうのだ。実際に双胴艇の前部で、左右の船体の間をパドルで掻いてみて、私はそのことに気づいた。水を横に掻いても、ボートは旋回しない。パドルが発生させた水流が船体に当たり、反作用が生じるからだ。
だから次に作るボートでも、駆動系は後部に配置するのが正解なのだ。
スクリュープロペラの性能
プロペラの直径30cm。これが大きすぎるのかどうか、ずっと気にかかっていた。というのは、もっと小さなプロペラでいいなら、浅場でプロペラが海底を擦る心配は小さくなるのだ。その場合は大げさなパンタグラフ構造は必要なくなり、駆動系をずっとシンプルなものにすることができる。
実際に漕いでみた結果、直径30cmのプロペラは、100kgのボートを推進させるには、むしろ非力だった。最大限に漕いでも、時速4km程度の速度しか出なかった。他方、もっと大きなプロペラだったら、今度は足への負担が大きすぎて、漕ぐのがつらかっただろう。言えることは、プロペラの直径は、30cmが限度ということだ。
同じ直径30cmでも、軽いボートならもっとスピードが出る。ボートがよほど軽ければ、もしかすると、もっと小さなプロペラで、もっとスピードが出せるかもしれない。しかしここは、欲張ってプロペラの直径を小さくしようなどとは考えず、このままの大きさ30cmで、次のボートを作製すべきだ。
パドルの改良
いざというときのために、パドルがいかに重要か、思い知った。
パドルの使用を、想定外の非常事態と考えてはいけない。パドルでも、スクリューでも、自由自在にボートを操れなければならない。もっと言えば、パドルでボートを自在に操れないうちは、不用意に沖まで遠出すべきではない。
それができるようになるには、軽いボートにすることと併せて、パドルそのものも改良しなくてはならない。少なくとも、カヤックのパドルのように、シャフトの両端にブレードのついているものでなければダメだ。そしてできるだけ軽いもの。さらにはシャフトの長さの最適化にも取り組む必要がある。
組立の簡素化
ボートを組み立てるのに、合計56ヶ所ものナットを締めなければならない。こんなことをしているから、組立てにも分解にも、1時間半ずつかかるのだ。
なぜこんなことになったのか。1本のボルトに複数の機能を集約するという発想を持たず、接合部ごとに1本のボルトを埋め込み、結果として船体からにょきにょきとボルトを生やしてしまったからだ。
複数のパーツを1本のボルトで留めるという発想を持てば、ボルトの数は半分から3分の1に減らせる。
それに、ナットをレンチで締め上げる必要はない。蝶ナットで十分だ。
再挑戦
一戦目は負けたに等しい。私は3年かけて巨大なごみを作っただけだ。しかしこのまま終わるつもりはない。2艘目はもっといいのを作る。
次は3年もかからない。おそらく半年ぐらいでできるだろう。来年の夏こそは、必ずフライフィッシングで、シイラを釣り上げる。