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前作の失敗

 以前の改造は失敗した。ピニオンギアのスプールとの嵌合部をステンレスで削り出し、それを瞬間接着剤でピニオンギアに固定したのだが、そんなものは実釣のほんの一瞬で、ぽろりと取れた。

ピニオンギア嵌合部の破損

 その一件があって、私はヒラスズキ用メインリールをレボエリートIB7とし、サブとして新たにディサイダー7を購入した。(そのディサイダー7は1年の酷使でレベルワインダーが損傷したのだが・・・)
 今、新たに始めようとするサクラマスに、やはり2500Cを使いたくて、再度この改造に取り組む。

金属同士 5つの接合方法

 自作のパーツをシャフトに差し込み、固定するだけだ。問題は、双方がステンレス。カシメがほとんど効かないことと、接着剤も効きにくいことだ。
 私が知る限り、金属同士の接合には5通りがある。カシメ、接着剤、溶接、ロウ付け、ハンダ付け。このうちカシメと接着剤はすでに失敗済みだ。
 残る3つの方法のうち、溶接は素人には無理だから、除外する。すると残るはロウ付けとハンダ付け。この2つのうち、どちらがいいのか?

ロウ付けの研究

 ハンダ付けは今までやったことがある。今回はロウ付けに挑戦してみよう。
 ロウ付けにも炎を使うが、溶接とは明確に違う。溶接はパーツ同士を高熱でいったん融かし、冷えて接合するのだが、ロウ付けの場合は、パーツ同士は熱するだけで融かさず、ロウ材を融かして、それで融着するのだ。したがって、強度は溶接には劣るという。
 いっぽう、ロウ付けとハンダ付けを比べれば、基本的な仕組みは同じだが、成分が異なる。ハンダは鉛とスズの合金、ロウ付けの銀ロウは銀と銅と亜鉛とスズの合金だ。銀ロウの方が強度は出るが、融点がハンダよりもはるかに高いので、作業の難易度は上がる。ロウ付けはハンダごてでは無理だ。是非ともバーナーが必要だ。

  ロウ付け

 実際やってみると、難しそうに思えたロウ付けも、できなくはない。3つやって2つ成功した。練習すればコツもつかめる。コツは2つある。フラックスを十分に塗布することと、効率よくバーナーで炙って、ロウ材だけではなくパーツごと真っ赤になるまで熱することだ。

ロウ付けの問題点


 しかし、ここでひとつ問題点が浮かび上がる。シャフトも嵌合部もステンレスだ。ステンレスには焼き入れも焼きなましも効かない。だから真っ赤に焼いても強度は変わらない。ところがギア部分は真鍮だ。真鍮は熱すると柔らかくなる。そして焼きなまされるだけで、焼き入れが効かない。真っ赤に熱した真鍮をジュッと水につけて急冷しても、焼きが入らない。真鍮を硬くするには鍛造するしかない。・・・研究の結果、大まかに言って、そのようなことがわかった。
 、 曲がった真鍮釘

 実際に試してみた。真鍮の釘をガスコンロで真っ赤に焼いて、ジュッと水で冷やした。焼く前は手では曲げられないほど硬かったのに、焼いた後はぐにゃぐにゃだ。もはや釘としての使用には耐えない。
 これと同じことが真鍮のギアでも起こるのか? 熱を加えると柔らかくなって、歯が曲がる?

選択

 そこで選択だ。
 選択肢1。強度を優先して、ロウ付けを行う。その場合、できるだけ真鍮ギア部分に熱が伝わらないように、作業手順を工夫する。
 選択肢2。真鍮ギアの保護を優先して、ハンダ付けを行う。その場合、強度に不安があるので、あまり大きな魚を釣らないようにする。
 こんな選択肢でいいのか? ハンダ付けがロウ付けより弱いとは言っても、たかがリールのパーツを固定するぐらいの強度は十分にあるということもあり得るのではないか?
 そこで実験してみることにした。まずはステンレスの同じパーツを、ロウ付け、ハンダ付けの2つの方法で接合した。

ワッシャー特技釘

 上がロウ付け、下がハンダ付けだ。ロウ付けしたものは、やはり高温に達したため、ステンレスの表面が焼けて変色している。他方、ハンダ付けしたものに変色はない。このことからも、両者の到達温度が大きく異なることがわかる。

 ところで、使ったのは、銀ロウは精密部品用の低温タイプ、ハンダはステンレス用だ。

銀ロウとハンダ

 そして使ったバーナーは、非力なライタータイプだ。小指の先ほどのパーツを接合するだけなので、これで十分だ。

バーナー

 次に、それぞれをわざと破壊してみる。それによって強さの差を感覚的に理解してみようというわけだ。

破壊比較

 やっぱりロウ付けの方が圧倒的に強い。釘が曲がってもまだ剥がれない。ハンダ付けも、釘は曲がる。その後の粘りがないだけだ。しかしロウ付けのこの強靭さを採用しないわけにはいかない。選択は1だ。

真鍮ギアへの熱対策

 ロウ付けには高温が必要だ。その熱が真鍮のギアに伝わるのは避けたい。また銀ロウがギアの歯に流れるのも避けたい。どのように作業すればいいか。こんなのはどうだろうか?

真鍮ギアの熱対策

 皿に水を張って、真鍮ギア部分を水没させる。真鍮が熱を帯びないように水で冷やすのだ。さらにギアの歯の上部を耐熱パテで覆う。こうすることによって銀ロウがギアの歯には流れない。
 接合すべきステンレスのパーツとシャフトの先は水面上に出ている。シャフトを伝わって熱が水中に逃げることになるが、ロウ付けには充分な温度を維持できるのではないだろうか。さらにパーツの下部にアルミの円盤を取り付け、まるでシャンプーハットのように、炎がギアにかかるのを防ぐ。
 うまくいくかな。やってみよう。

 見事に失敗だ。原因は、加熱と冷却を両立できなかったこと。水面上ではステンレスのパーツを真っ赤に焼き、水面下では真鍮のパーツを冷やして熱から守る。こんな都合のいいことは実現できなかった。ロウ付けには高温を要するのに、結局、このやり方ではロウが十分高熱になって融けるほどの熱が足りなかった。

再挑戦と成功

 動画には撮っていないが、この後、苦労してこびりついたロウを除去し、やり直した。やり直しでは、冷却水も、シャンプーハットも、耐熱パテも使わず、普通に炎で炙った。そして成功した。
 しかし、ステンレスを真っ赤に焼くほどの高熱がシャフトを伝わり、真鍮のギアを痛めていないかどうかが心配だ。とは言え、それはこの場ですぐに確かめてみることができない。長く使ってみないことには、ギアの強度が保たれているかどうか、わかりようがない。

一応成功

 この後、ビーチで2時間ばかりキャスティングをしてみた。リーリングも、キャスティングも、普通にできた。クラッチも、ドラグも、問題なく機能する。
 現時点ではこれでよしとしておこう。

フィールドテスト

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