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ヒラスズキ用のリール選択

 とてもごきげんなヒラスズキ用ロッドができあがった。磯で使うにしてはかなりライトなロッドだ。ヒラスズキ相手に引っ張り合いっこはない。根に潜る魚ではないからだ。それより水面でエラ洗いをするから、追従性のいい、しなやかなロッドの方がばらしにくい。
 それはわかっていたのだが、なかなかヒラスズキに絞ったロッドを作る時間の余裕がなかった。そこで奮起した。夏の釣りを完全キャンセル、部屋にこもってロッドビルディングに勤しんだ。今年の夏は1匹のソウダガツオも釣っていない。それと引き換えにいいロッドができあがった。
 さあ、ここでリールの選択だ。この新しいロッドでは、新たな戦術を駆使する。以前にもまして近距離戦。細身のミノーを使い、やわなフックで、ややこしい場所に放り込む。海面から顔を出した岩の際ぎりぎり。たとえ根掛かりしても、やわなフックなら伸びてルアーは回収できる。今までは主に溝や段差狙いだったのだが、波砕ける岩ぎりぎりを狙うのが新戦術だ。この新戦術にふさわしいリールは何か? 5500Cではスプールの回転が鈍重すぎる。軽いミノーのコントロールが粗い。もっと精度の高いキャスティングに向いた、小型のリールがいい。

ロープロファイルリール

 私が所有する小型のリールも、ずいぶん数が増えている。中古屋で安くてきれいな1500Cや2500Cを見かけるとついつい買ってしまうのと、最新のロープロファイルリールも使ってみたくてそこそこ値の張るのを奮発したからだ。

ロープロファイルリールの欠点

 最新のロープロファイルリールも悪くない。擬似オフセットとロープロファイルリールの組み合わせは、パーミングがほんとに楽で、実はけっこう相性がいいのだ。

ロープロファイルリール

 しかし、ロープロファイルリールには、あの問題がある。まるでスピニングリールのような、ライン放出性の悪さである。キャスト時に、ザザザーと引っ掛かりを感じさせつつ、ラインが出てゆく。そのせいでキャストの飛距離は意外に伸びず、おまけにラインの劣化が激しい。
 その理由はわかっている。キャスト時にレベルワインダーが作動しないので、ときにラインが斜めになって出ていくからだ。下の写真がその状態である。

斜めのライン

 リトリーブ時にはレベルワインダーが作動するので、キャスト直前までは、ラインはスプール上でジグザグに均等に巻かれる。ところがキャスティング時にはレベルワインダーは動かない。レベルワインダーとラインの位置がずれ、スプールから離れる際、ときにラインは斜めになる。この時の抵抗が大きいのだ。
 とくにレベルワインダーがたまたま左右どちらかの端で止まった場合には、スプール上のライン放出点がその反対側の端に位置した時、ラインにもっとも大きな角度ができる。このとき、ラインとスプールとの接点で、ライン同士がこすれあい、大きな抵抗となる。この抵抗がルアーの飛距離を縮め、予想以上のラインの消耗をもたらす。PEラインの場合は、1度の釣行でラインの先数メーターが毛羽立ち、次の釣行ではその部分を切り、リーダーを結び直さなければならないほどだ。
 私の知る限り、最近のリールは皆そのようになっている。例外はアブガルシアの丸型アンバサダーに搭載された“シンクロナイズド・レベルワインド”だ。スプールとレベルワインダーのシャフトがギアで連動していて、リトリーブだろうとキャストだろうと、スプールが回転すれば常にレベルワインダーを駆動する。“シンクロナイズド・レベルワインド”などと改まって名付けられているから、なにか新方式の特殊な機能のような印象があるが、何のことはない、昔からある、アンバサダーがもともと持って生まれた機能のことだ。
 歴史的経緯からすれば、キャスト時にレベルワインダーが動かないのが、新たな流れとして定着したのだ。メーカーの意図するところは、スプールとレベルワインダーの連動を切り離し、スプールの回転を軽くして得られる遠投性能では、おそらくなかったはずだ。そうではなくて、スプールとレベルワインダーを切り離すことによって、店頭でのスプールの回転を良好なものにし、購買者を過剰に期待させ、大してありもしない遠投性能を刷り込もうとしたのだ。

メーカーの試行錯誤

 そんなふうに言い切るのは、メーカー自身がこの方式の欠点を解決しようとして、さまざまな新機構の試行錯誤を行ってきたからだ。つまりは、メーカーはその欠点を正しく理解していたし、その克服のための努力も重ねてきたということになる。正直に「スプールの回転が軽くはなりましたが、ライン放出の抵抗が大きいので、期待するほどの遠投性能はありません」とは、決して言わなかったが。
 そもそも、レベルワインダーをできるだけスプールから離した位置に置いているのは、今となっては全メーカーに共通の、定着した設計になっている。これは唯一の成功例だ。こうすることによって、ラインがスプールに対して持つ角度は緩和される。しかし、他の試みはすべて失敗に終わったのではないか?
【その1】クラッチを切ると、レベルワインダーのスリット部分が前に倒れ、レベルワインダーをスプールから遠ざけるという機構。
【その2】クラッチを切ると、レベルワインダーのスリット部分が左右にビヨンと分離し、ラインが自由に出てゆく機構。
【その3】クラッチを切ると、レベルワインダーの上部のライン押さえがパカッと開き、露出したレベルワインダーのスリットがT字型をしていて、ラインが上部の広い部分を通る機構。
 ほかにもあるかもしれないが、私は知らない。また、そのすべてを自分で使ってみて、失敗と判断したわけでもない。普及せずに消えていったか、消えてはいないけど不具合があってそれほど普及していないか、そのさまを見て失敗じゃないのかと勝手に思っているだけだ。
 それでも、ダイワのT字型レベルワインダーは、シンプルでありつつも設計者の発想がとてもユニークで、これを煮詰めて全機種に搭載すればいいのにと思っている。出し惜しみをして上位機種にだけ搭載するというのであれば、ロープロファイルリールの欠点を盾にとって、「それが嫌ならばもっと金を出せ」と言っているに等しい。
 ところで私は【その1】にあげたリールだけは、1台所有している。ロープロファイルではなく、丸型だ。中古屋で安かったから、面白いなぁと思って、つい買ってしまった。本気で使うつもりなんてない。キャスト後のリールの巻き始めに、しばしばパーミングした左手の親指がこの機構に食いつかれて、とても痛い思いをする。

ドラグの特性

 キャスト時には押しなべてレベルワインダーが追従しないというロープロファイルリールの欠点がある一方で、魚とのファイトでドラグが滑った時のレベルワインダーの追従性には、どうやらメーカーごともしくは機種ごとの差異があるようだ。
 最初に私がそのことに気付いたのは、アブガルシアのレボとダイワのアルファスを比べてみたときだった。両方ともクラッチを切ってスプールをフリーにしたときには、レベルワインダーは動かない。ところがドラグが滑ってラインが出てゆくときには、レボはレベルワインダーは動かないが、アルファスはレベルワインダーがラインに追従して左右に動くという差異がある。
 この差異にはどのような意味があるのか。アルファスの方がドラグがスムーズにラインを出すということだ。そのことを動画で確認してみよう。最初にアルファス、次にレボだ。

 アルファスにはドラグのクリック音がないので、静かにラインを吐き出している。聞こえるのは、レベルワインダーをすり抜けるときにPEラインの編み目が奏でる、高音のかすかな摩擦音だけだ。かたやレボのドラグにはクリック音があり、そのせいで動画ではかき消されているのだが、実際にはバリバリというライン同士が強く擦れる音がしている。その違いの理由は、見比べると一目瞭然だが、アルファスはレベルワインダーがラインに追従して動いているが、レボは止まっているのでラインが斜めに出てゆくからだ。
 なぜレベルワインダーにこのような差異が生じるのか。それはレベルワインダーのウォームシャフトを回すギアが、メインギアに固定されているか、ハンドルシャフトに固定されているかの違いによる。
 下の写真は、アルファスを途中まで分解ししてみたところだ。写真中央に真鍮のメインギアがある。その裏面に6つの穴が開けられてあって、隣のギアの3つの突起がそこに噛み合うようになっている。この茶色のギアがウォームシャフトを回すのだ。すなわちレベルワインダーを動かすのはメインギアである。

アルファス

 レボの場合は、ギアの位置は似た場所にありながら、固定された相手はメインギアではなく、ハンドルシャフトだ。下の写真の黄色いギアがそれであり、ハンドルシャフトの根元にあって、メインギアとは直に接していない。すなわちレベルワインダーを動かすのはハンドルなのだ。

レボ

アルファスの優位性

 魚がドラグを滑らせてラインを引き出す時に、バリバリと音を立てて出てゆくのは嫌だ。ラインが斜めになった時とまっすぐな時の抵抗の差で、ドラグ力が変化してぎこちない滑り方になる。いや、それより、摩擦でラインが傷んでしまう。
 この問題を、アルファス方式は解決してくれている。アルファスはいったんキャストしてリトリーブに入ったら、魚が引いてラインを出されようが、ドラグが滑ってハンドルが空回りしようが、クラッチを切らない限りラインとレベルワインダーはシンクロしている。ただし、魚がルアーの着水点を越えて遠ざかった場合には、そこでシンクロは切れるのではあるが。
 このアルファスの方式を、私は勝手に、“セミ・シンクロナイズド・レベルワインダー”と名付ける。それと区別して、丸型のクラッシックタイプのアンバサダーのように、常にレベルワインダーとラインがシンクロしているのを“フル・シンクロナイズド・レベルワインダー”、そしてレボの方式を“ノン・シンクロナイズド・レベルワインダー”と呼ぶ。
 各メーカーはどうなのだろうと思い、いつもの釣道具屋へ行って調べてきた。アブガルシアは、ロープロファイルに限れば、みな“ノン・シンクロナイズド・レベルワインダー”だった。ダイワはというと、アルファスを含めた一部の機種が“セミ・シンクロナイズド・レベルワインダー”だったが、“ノン・シンクロナイズド・レベルワインダー”のモデルも多くあった。シマノはというと、その釣り道具屋に置いてあったリールは丸型も含めてすべて“ノン・シンクロナイズド・レベルワインダー”だった。
 どういうことなのだろう? これはダイワの特許なのだろうか? それにしてはすべてのダイワのリールが“セミ・シンクロ”というわけではなかった。しかも高級品と普及品の区別というわけでもなかった。その店で最も高価なダイワリールが“ノン・シンクロ”だった。
 どうなっているのかよくわからないな。ダイワが優れているとは言えないのか。アルファスが優れているのだ。

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