2500Cの優位性
アンバサダー2500Cは“フル・シンクロナイズド・レベルワインダー”である。キャスト時であれ、リトリーブ時であれ、ドラグが滑った時であれ、つねにスプールとレベルワインダーはシンクロしている。なぜなら、レベルワインダーのウォームシャフトを駆動しているのはスプールだからだ。下の写真で、カップの内側に2つのギアが並んでいるが、そのうち小さい方がスプールシャフトと噛み合い、大きい方のギアを回し、さらにそれがフレームの縁に顔を出しているウォームシャフトのギアを回すのだ。
スプールが常にレベルワインダーを稼働させることは、キャスト時のスプール回転に対する抵抗が増すことをも意味するが、レベルワインダーは遠心ブレーキを補完する役割を果たしている。レベルワインダーは、質量物を左右に往復運動させることによって、スプールの回転エネルギーを減衰させる。しかも減衰エネルギー量は、スプールの回転速度に比例する。すなわちブレーキの効き方が遠心ブレーキと同じで、スプールの回転が速いほど強く掛かるのだ。こうしてレベルワインダーは、本来の役割を果たすと同時に、ブレーキシステムの一部でもあるのだ。
もしその抵抗が必要なブレーキの範囲内に収まるなら、ルアーの飛距離を落とさない。だから、よほど軽いルアーを使わない限り、“フル・シンクロ”があだとなって“セミ・シンクロ”や“ノン・シンクロ”のリールに飛距離で劣るということはない。十分な重さのルアーを使うなら、むしろ勝るほどだ。
それより、ラインにやさしいことがうれしい。このことは、どれほどのアドバンテージと言えるだろうか? この問いは、実は、大多数のアングラーにとっては無意味なのだ。なぜなら大多数のアングラーが使っているスピニングリールは“ノン・シンクロ”だからだ。
スピニングリールの場合
スピニングリールは、ラインを均等に巻くために、スプールが上下する。このオシレートは、ハンドルを回した時にのみ、したがってリトリーブ時にのみ働く。キャスト時にはラインはらせん状に、斜めになって出てゆく。ドラグが滑った時にはスプールだけが回転し、ドラグとオシレーションは連動していないので、ラインは角度を変えつつ、ときに斜めになりながら出てゆく。このときスプールを離れるラインが隣のラインと交差して、バリバリと音を立てる。
このように、スピニングリールは“ノン・シンクロ”だ。しかしそれで、いったいどれほどのユーザーが不満に思っているだろうか? スピニングの“ノン・シンクロ”は、当たり前のように受け入れられているのだろう。そこに焦点を当てても、膝をたたく者はいないだろう。
しかし私はこだわる。“フル・シンクロ”のリールがいい。ゆずっても“セミ・シンクロ”だ。レボの“ノン・シンクロ”にはがっかりした。
スピニングリールの根本的な欠点
そうはいっても、スピニングタックルの根本的な欠点は、もちろん“ノン・シンクロ”にあるのではない。私がスピニングタックルが苦手な理由は、何と言ってもその糸撚れにある。スピニングリールに特有の糸撚れこそは、ラインの結び瘤、スプールからの糸ほどけ、ガイドへの絡み、キャスト切れ等、すべてのライントラブルの原因だ。
意外なことだが、スピニングリールの糸撚れは、キャストとリトリーブからは発生しない。もちろん、新しいラインを巻いたときには、ローター1回転当たり1回の撚れがかかる。しかし、そこからキャストとリトリーブをいくら繰り返しても、原理上は、それ以上の糸撚れは蓄積しない。(もちろん経験的には、糸撚れは増すのだが。)
ところが、ドラグは別だ。スピニングリールのドラグは、ラインにますますの糸撚れを蓄積させる。より正確に言えば、ドラグが滑って出て行ったラインを巻き取ることにより、糸撚れがローターの回転数分加算されるのだ。
そのことをわかりやすく表すなら、次の動画のようになるだろう。実際の釣りでは、魚にラインを引き出され、それを巻き取ることを繰り返す。しかし、それだとラインに撚れがかかっていることがわかりにくい。そこで、それを同時に行ったら? 例えば、ラインの先を柱にでもくくりつけて、ドラグを滑らせつつ、ハンドルを巻き続けたら? 同じことだ。そして、そんなことをすればラインが撚れてとんでもないことになると、すぐに理解できる。
だから、スピニングリールにおいては“ノン・シンクロ”だとか“フル・シンクロ”だとか、あまり問題にならない。本当は、ツイストバスターとかのラインローラーの形状やボールベアリングも、それほど重要ではない。糸撚れを発生させるドラグこそが問題なのだ。なのに私は、リトリーブでラインを巻き過ぎてたらしが短くなってしまった時など、不用意にラインを引っ張り出してドラグを滑らせる。あるいは魚がかかって強く引いたときなど、すでにドラグが滑っているのに、やみくもにハンドルを巻いてしまう。そのたびに糸撚れが発生して蓄積し、後のライン絡みやキャスト切れを誘発する。
スピニング使いの友人に言わせれば「それは使い方が悪い」となってしまう。だけどね、ベイトキャスティングリールなら、こんなことは起こらんよ?
2500Cの致命的弱点
さて、アンバサダー2500Cが“フル・シンクロナイズド・レベルワインダー”であるなら、迷うことなくそれを使えばいいのだが、そうはいかない事情がある。それは、1500C/2500Cには重大な弱点があり、ハードな使い方には耐えられないからだ。その弱点とは、ピニオンギアの弱さだ。
1500C/2500Cのピニオンギアは、スプールシャフトに設けられた平面にたいして「コ」の字型に噛み合うようになっている。兄貴分の5000Cもこの方式だ。そのハイスピードモデルとして派生した5500Cからは「−」型になり、ウルトラキャスト・デザインの最新型は「+」型になっている。
「コ」の字型の噛み合いの欠点は、ステンレスのスプールシャフトが、真鍮のピニオンギアを削って、この噛み合いが徐々に浅くなり、最終的には空回りするようになることだ。ハイシーズンには毎朝出勤前に釣りに行くような釣行回数だと、たった1シーズンで使えなくなる。これは1500C/2500Cの致命的な弱点だ。
5000Cはギア比が低くてピニオンギアが大きいので、すでに削れてきてはいても、まだ空回りまでは経験したことはない。それでも5000Cが本当に一生使えるのかは疑問だ。ましてや1500C/2500Cの場合は、本当に小さなピニオンギアなので、ほんの少し削れただけでもう致命傷となる。
2500Cの真鍮のピニオンギアを、なんとかしてステンレスで補強できないか? それがここ数年来の課題となっている。硬いステンレスが柔らかい真鍮を削ってしまうのとは違って、ステンレス同士なら、格段に耐久性を向上させることができるはずだ。
2500Cには、ほかにも手を加えたい箇所が数点ある。それは後に詳しく点検しながら、実際の改造で説明する。
比較のまとめ
ここで、私の所有する小型のベイトキャスティングリールについて、特徴の比較を一覧表にまとめておこう。これが私のリール選びの着眼点であり、それがストレートに得られないことが改造の動機となる。
モデル | シンクロ | ピニオン | ドラグ | ギア比 |
---|---|---|---|---|
フル ○ | 「コ」 × | クリック ○ | 4.7 × | |
フル ○ | 「コ」 × | クリック ○ | 5.3 △ | |
ノン × | 「+」 ○ | 無音 × | 7.1 ○ | |
ノン × | 「+」 ○ | クリック ○ | 7.1 ○ | |
ノン × | 「+」 ○ | クリック ○ | 7.1 ○ | |
セミ △ | 「−」 ○ | 無音 × | 5.8 △ | |
フル ○ | 「コ」 × | 無音 × | 5.1 △ |
上の表にあげた比較項目の中で、改造で何とかなりそうなものと、そうでないものがある。材質をより強度のあるものに変更し、同じ形状のパーツを自作すればこと足りるものは、最も改造がしやすい。また、あるパーツに別の機能を付加しつつ、もとの形状を維持することも、不可能ではない。しかし、パーツの位置や順番を変更して、機能の仕方を変えるためには、筐体の大掛かりな改造を伴う。これは素人には無理だ。
つまり、ピニオンギアをステンレスで補強したり、ドラグワッシャーにピンを仕込んだりすることはできても、ハンドルシャフトと連動しているレベルワインダーを、メインギアに連動するようにするなど、ちょっとやそっとでは改造することができない。だからAbuGarciaのロープロファイルリールとは、ここでお別れ、もう新規に購入することはない。今後、ロープロファイルリールを買うなら、ダイワのアルファスに限る。ただしそれとても、ちょっとした改造を伴うことになるのだが。
つなぎのレボ
2500Cの改造に取り組んでいる間、“セミ・シンクロ”のアルファスを使うか? そうはいかない。アルファスのドラグは沈黙のドラグだ。魚とのファイトでドラグが滑ってラインが出ていくとき、アルファスはスーッとすました顔でラインを吐き出す。5500Cで釣りを始めた私には、これは耐え難いほどに物足りない。アルファスのドラグにもクリックを仕込んでやりたい。
とはいっても、それとて時間のかかることだ。アルファスの改造は、初めてのロープロファイルリールのチューニングとなるので、楽しみながらじっくりとやりたい。仕方がない。当面はがまんして、“ノン・シンクロ”のレボで釣りをすることにしよう。
レボにはアルファスにも2500Cにもない魅力がある。7.1:1の高ギア比だ。それはルアーのリトリーブに必要なものでも、魚とのファイトに必要なものでもない。目的は、このままでは波に巻かれてルアーが岩に引っかかるというときの、瞬時のピックアップだ。これで根掛かりがずいぶん減るのだ。