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釣りにバイク

 海辺の町に住んでいる。ソルトウォーターのアングラーにとって、この町は夢のようなシチュエーションだ。しかしフレッシュウォーターのゲームとなると、ターゲットの魚種は乏しく、堰堤に放たれたブラックバスぐらいしかいない。釣行半径を近隣から少し広げて、広く県内の山中を目指しても、そこにはトラウトはいない。山は丘陵地帯にすぎず、谷は深くはない。だからトラウトの棲む領域は、私にとって遠い憧れの世界だ。
 踏み込むことのできない聖域。あるいは異次元の別世界。遠すぎて、今まで、とても行く気にならなかった。しかし今、そこへいよいよ踏み込むことを企てている。きっかけはバイクの免許を取ったことだ。250ccの小さなバイクを買った。わずかのガソリンで、走る、走る。燃費は40km/l。思いがけず手にした機動力。これなら長距離の釣行も躊躇ない。手の届く現実的な目標になり得る。

CB250R

 そのかわり、ひそかに思っていたもっと大掛かりな夢はあきらめよう。アラスカのキングサーモンだ。開高健の『フィッシュ・オン』を読んで以来、いつかはチャレンジしたいと思っていた。しかしこのままずるずると歳を食っていくとするなら、もう無理だ。資金はいっこうに貯まらず、体力はどんどん衰える。
 そこで、ターゲットを国内に切り替える。サクラマス。その魅力はキングサーモンに劣るまい。

極上の釣り

 サクラマスは極上のターゲットだ。もったいつけて、あれやこれやこだわりぬき、時間をかけて相見える。そんな釣りにしたい。
 私は偏屈な性格だから、簡単に釣れる釣りは、もともと好きではない。来る日も来る日もノーヒット。それでもあきらめない。そんなのに美学を感じる。あるいは長い準備期間を経て、やっとフィールドに立てた。そんなのもまたいい。サクラマスをやるなら、後者だ。フィールドがうんと遠いから。この釣りでは、来週も再来週もやるから今日は釣れなくてもかまわない、数撃ちゃそのうち当るだろうというのは、できない。
 だから使用するタックルにも、もったいつけて、うんとこだわる。リールは自分でチューニングの手を加えたもの、ロッドは自らロッドビルディングしたものしか使わない。
 とりあえずリールは2つの候補に絞られる。アンバサダー2500Cか、カーディナル44だ。この2つのリールのチューニングを完成させる。それらはまだ誰もやったことのないチューニングだ。途中まで手掛けて止まっていたのだが、しっかりとやり遂げる。

アンバサダー2500Cとカーディナル44

 両方ともABUだが、これはABUへの忠誠ではない。あれはとっくに滅んだ。滅びゆく無様な姿もこの目で見た。だから私の中にはABU神話のようなものはない。
 また、したり顔して「ABUのタックルは性能では劣るけど、その雰囲気を楽しむものだ」などとも言いたくない。私はそんな物分かりのいいユーザーじゃない。
 リールに欠点があるなら、改造を加えて、自分の手で克服しなければ気が済まない。ユーザーの手でリールを育てる。そういう楽しみ方。そこにじっくり時間をかける。そうすれば、それはもうABUのリールではない。私のリールだ。
 ロッドも、一からのロッドビルディングによって、ベイトとスピニングの2本を作る。新しいコンセプトで、今までにないものを作り上げる。飛びきり機能的で、美しいロッドを。
 それが完成するまで、決して竿は出さない。これは時間がかかるぞ。川へ行けるまで、いったい何年かかるんだ? ましてやサクラマスを釣り上げるまでとなると・・・。
 それでいいんだ。

アンバサダー2500Cのチューニング

 途中まで手掛けたチューニングの、これは続きだ。それを完成させる。その詳細はこのページにある。

カーディナル44のチューニング

 カーディナル44のチューニングはかなり手の込んだことになっている。以前からの取り組みを継続する。その途中経過はこのページにある。【2019年10月6日追記】

<つづく>

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