不具合の修復
あの「ガガッ」という音は、ギアの歯が空回りする音だ。実際、音だけではなく、ペダルからも空回りの感触が伝わってきた。では、どこで空回りしているのか? ペダルに直結した大元のベベルギアだ。たわみによってギアの歯が逃げ、歯飛びするのだ。
軸受け部分は頑丈に作ったつもりだったが、よほど強い力が掛かっていると見える。そりゃそうだよな。渾身の力でペダルを漕ぐんだから、それを受け止める軸受けには相当の負荷が掛かっているはず。そこで、金輪際たわまないように、考えつく限りの補強を施した。
上の写真はピニオンギア側だ。上下から軸受けのプレートを挟むように補強を入れた。そして下の写真がメインギア側だ。こちらは前後から挟むように補強を入れた。
これでなおたわむなどということは考えられない。そこまでの対策を施した。
最後にじっくりと観察すると、ナイロン製ギアの歯がかなり削れている。エッジに消しゴムのかすのようなものがこびりついている。これってまずいかな。しかし歯飛びさえしなければ、これ以上おかしな削れ方をすることはないだろう。
再進水式
9月29日。前回の失敗を挽回すべく、小雨降る中、再進水式に臨んだ。結果は下の動画のとおり、またもや失敗だ。ギアの歯飛びが止まらない。
ゆっくり漕ぎ出した。なかなかスピードが乗らない。すでにペダルは相当重い。それでも歩くようなスピードでしかない。時速4kmぐらいか。そこでペダルにさらに力をこめた。とたんに、「ガガッ」。信じられない。また歯飛びだ。
速度を抑えると、歯飛びは収まる。極力ペダルに負荷をかけ過ぎないようにうして、そのまま3時間漕ぎ続けた。失敗でもいい。とにかくデータが欲しかった。
スピードが出ないのは、船体が思ったよりも深く沈んでいるからだ。全長を切り詰めて3.2m、ずんぐり幅広の船体、そして目標重量をオーバーする自重。このボート、どんだけ重いんだと思って、計測してみて愕然とした。65kgもある。目標とした重量の2倍だ。なんだかんだで重くなってしまったのだ。だからスピードが出ないのだ。
とは言っても、前回の失敗作と比べると、かなりの軽量化を果たしている。前作は100kgをはるかに超えていた。その半分近くまでの軽量化には成功したのだ。そのことがスピードには反映されていないが、舵の効きは前作よりはずいぶんよくなった。軽量化もさることながら、船体の後半を尻上がりに斜めにカットしたことも功を奏したに違いない。
船体を左右に揺さぶって安定性を確かめてみた。どんなに激しく揺さぶっても、転覆しそうな気がしない。双胴艇という形状のため、安定性はすこぶる高い。
3時間漕ぎ続けて、最後にはペダルが損傷した。ペダル面があらぬ方を向いた。騙しだましそっと漕いで、岸に帰還するのがやっとだった。後で確認すると、左のペダルのクロスピンが折れていた。4mmのボルトでは弱かったのか。
ギアもペダルも弱かった。もっと力をこめてペダルを漕ぐことさえできたら、全体の性能は上がるだろう。軽量化が十分ではないとはいえ、もっとスピードが出る。そうすれば、舵の効きがさらに良くなる。そのためには抜本的にギアとペダルの強化を図らなければならない。
今後の課題
私の判断ミスは2つあった。
ひとつは、ベベルギアのメインとピニオンのそれぞれの軸受けを、別々のユニットで固定したことだ。それぞれを強化しても、ユニット間でのたわみは解消できない。私は愚かにも、そのことに気づかなかった。事前に施した補強は、ユニット同士の結合に関しては一切手付かずだった。
下の写真で言えば、メインギアの軸受けを固定した支柱と、ピニオンギアの軸受けを固定した支柱との間に、広い空隙がある。これは万一ギアが損傷した場合に、損傷個所が目視できること、そして修復作業がしやすいことを目的として、意図的に開けたのだ。しかしそれがいけなかった。この隙間でたわみが生じたのだ。
失敗はもうひとつあった。この場所にプラスティック製のギアを使ったことだ。その目的は軽量化とコストダウンだった。しかしそれが間違っていた。ギアそのもののたわみが、軸受けのたわみに加わったのだ。高くても、重くても、ここにはステンレス製のギアを使用すべきだった。さらに付け加えるなら、軸受けもプラスティックのオイルレスではなく、たとえ高価でも、ボールベアリングを使用すべきだった。
以上のことに加えて、ペダルをもっと頑丈に作ることにして、今後の改善点が見えてきた。問題はそれをどう進めるかだ。第3期。一から新しいのを作り直すか。第2.5期。現在のものを修理・改良するか。
まずは第2.5期に取り組むことにしよう。第3期では、これとは別に、軽量化に主眼を置いた新しい船体に取り組もう。
ただし、少しの期間、インターバルを置きたい。やりたいことは他にもたくさんあるから。ボート作りばっかりやっているわけにはいかないのだ。