ライダーの私が言った。「明日は山形を目指すぞ」。アングラーの私が言った。「何言ってんだ、明日はヒラマサ狙いだろう。今やらずに、いつやるんだ」。ライダーは譲らなかった。「前回の釣行で何の気配もなかったし、何より明日は潮回りがよくない」。アングラーは食い下がった。「条件が厳しいことはあきらめる理由ではない。むしろ挑戦する理由だ」。
私には欠点がある。遠く未来の計画にうっとりと熱中するあまり、目の前の事柄をおろそかにし、努力を怠るのだ。自分でもわかってる。だけどそんな自分をコントロールできない。
二人の自分に折り合いをつけなければならない。だからライダーに条件を示した。「具体的な成果を示せるか? 栃木ではダメだ。福島まで行くんだ。だったら許そう」。ライダーは言った。「意地でも行ってやるさ」。
サクラマスへの道、その5。
初めて福島県に到達した。往復600km、20時間のライディング。朝4時に出発して、深夜0時に帰着した。山形県はさらに遠い。これで半分強だ。やはり日帰りで最上川は無理なのか?
それでも高速道路を使うのは嫌だ。貧乏だから高速料金をけちっているのではない。それだと金でサクラマスを買うような気がして、自分の手を縛っているのだ。