水平線
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 2月12日。ちょうど1か月前。チャンスが来たことを察知し、磯へ行った。そのチャンスとは、黒潮の接岸だった。
 午前6時過ぎ、1つずつ条件を積み上げるようにして、状況はエスカレートした。最初はくっきりとした潮目の出現だった。次にカモメが騒ぎ出し、同時に水面がざわついた。どうやらイワシの群れが流れてきたようだった。ブリのボイルが遠くの海面で繰り広げられ、徐々に近づいてくる気配があった。そして突如としてそれが目の前に現れた。
 群れは小さく、数は少なかった。しかし個体はでかかった。メーター級。背中をあらわにして、イワシを追った。
 必死になってキャストを繰り返した。ミノーじゃダメなのか? ダイビングペンシルに変えた。それでもヒットしない。このアクションじゃダメなのか? それじゃ、トウィッチングなのか? ペンシルの後ろの海面が大きく盛り上がった。しかしそれだけ。一瞬の、しかし絶好のチャンスに、とうとうヒットさせられなかった。
 その翌日、再度挑んだ。しかし海は荒れ模様で、昨日とは様子が違った。水温を測って驚いた。摂氏18度。これが2月の水温か?
 長期戦を覚悟した。毎日でも通って、絶対釣ってやる。自分の体力を心配した。同時にわくわくした。しかしそこまで。翌日にはみるみる黒潮は遠ざかり、水温は摂氏14度にすとんと落ちた。ブリも、カモメも、イワシも消えた。
 3月に入って、黒潮は再び接岸した。水温は16度まで上昇した。どうする? ブリを待つのか、ヒラスズキを追い求めるのか? 決心が固まらないまま、知り合いがランカーヒラスズキを釣り上げたと聞いて、指をくわえた。やっぱりここはヒラスズキか。迷いながらフィールドに立った。その中途半端さがいけなかった。何とかものにしたのは、65センチに届かない、ありふれた釣果だった。

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