6番のロッドを手に早朝のビーチに降り立つと、海面はおどろおどろしい雰囲気を漂わせていた。大潮の満潮直前。潮が渦を巻き、イナが逃げ惑っている。これは異様だ。魔物でもいるのか。いったい何がいるっていうんだ?
あまり見たことのない魚が釣れた。セイゴによく似た姿で、歯が鋭く、縞模様があった。これは何? 続いてヒラセイゴがヒット。新しく巻いたフライは魚の食いがいい。反面、フライの尻尾がフックに絡みやすい。だからそっとキャストした。それが良かった。フライラインがきれいなループを描いて、気持ちよく滑空する。フライキャスティングって、本来こうするものだったんだね。
まだまだいるぞ。水面直下でギラッと反転しているのはヒラセイゴだろう。イナなら飛ぶものな。そのイナがときどき海面に花を咲かせたように一斉に飛び散る。明らかに怯えている様子だ。その中心にもわっという渦ができた。何だろう、スズキかな? でもこのフライじゃ小さいよな。いや、今日はセイゴに集中だ。あんなのは無視、無視。ところがまたもやイナが逃げ惑ったとき、魔物が勢い余って海面から全貌を現し、宙に舞った。思わず「そうなんですか!?」と呻き、8番のタックルを取りにクルマに走った。
でもねぇ、そういう肚の座らない浮気心って駄目だよね。魔物に相手にされないばかりか、その後はセイゴやメッキの居場所を見つけられず、ヒットは途絶えた。