水平線
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 ある日、ご主人様がぼくにこう言った。「このロッド、もう使うこともないだろうから、捨てようか」。そんな…。ご主人様は一生懸命ぼくを作り、気に入って、名前まで付けてくれたのに。
 ご主人様のロッドビルディングはその後ずいぶん発展し、新しいロッドができると、ぼくはもう何年も使ってもらえなくなった。寂しかった。捨てられないように、息をひそめ、気配を消して、部屋の片隅にじっと立ち尽くしていた。
 後輩のロッドが折れたと知った時、ぼくは部屋の片隅で、遠慮がちにカタンと音を立てた。ぼくに気づいたご主人様の顔が、にわかにぱっと輝いた。「そうだ、こいつがあるじゃないか」。ぼくは誇らしい気持ちになった。またご主人様のお供ができる。
 後輩よりもぼくの方が短くて、ほんのちょっと硬い。だから重いルアーが投げやすい。ご主人様はウェーダーに穴が開いたから、水に濡れない場所からの遠投でアプローチするしかなかった。ぼくはそれにちゃんと応えた。釣れればもっとよかったんだけど、あの場所は底がフラットだから、ベイトがいないとヒラスズキはやってこない。でもやがてチャンスのある日も来る。
 どうなる、ぼくの運命?

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