エポキシを買い足した。スクリュープロペラの作製のためだ。ところが通信販売の会社のミスで、発注したものとは違う製品が届いた。販売会社に電話すると、正しい製品を改めて送るから、間違った製品を送り返してくれと言う。ま、そうだろうね。そうしてくれ。問題は、ぽっかりと空いてしまった今日1日を、どうして過ごそうかってことだ。
こんなことなら、釣りに行けばよかった。いやいや、今日は波の高さ3mだぞ。釣りになんか行ってれば、吹っ飛ばされる。じゃ、バイクか? だけどこんなときに、バイクは入院中なんだよな。転倒したせいで、写真のとおりクラッチレバーがくにゃりと曲がってしまったのだ。あれからもう2週間にもなる。あのバイク屋、いつも仕事が遅いんだ。
ところで、あれは期待通りの、見事な転倒だった。と言うのは、わざと転倒しに行ったからだ。バイクの限界を知るために、今のうちにあえて転倒も経験しておくべきだと考えたのだ。運転が巧くなってからでは、スピードもそれなりに出ているだろうし、ただでは済まないからね。
とは言っても、道路を普通に走っていたのでは、いくら下手な私でも転びはしない。だから山へ行ったのだ。文字通りの。ワインディングっていうんじゃなくて、ハイキングで歩くような、マムシが出そうな本当の山道。
最初のうちは舗装されていた。コンクリートに滑り止めの横ラインの刻まれた登り急斜面。やがてY字路に差し掛かった。左はそのまま登り。右は下り。どっちに行けばいいんだと迷ったのがいけなかった。停まった途端に、柔道の投げ技を食らったように、すってーんと右に転んだ。このバイクで初めての転倒だった。でもバイクって転んでも意外に傷つかないもんなんだな。ハンドルのバーエンドとマフラーにほんの少し傷がついただけだ。まだまだ行けるぞ。
そこをさらに上っていくと、舗装が途切れた。今まで以上の、立ちはだかるような急斜面。道がついているとはいえ、落ち葉に覆われた山肌そのもの。しかもその少し奥で左への急カーブ。私の腕では登れないのはわかっていた。だけどここへ来た目的は無茶をすること。バイクの限界を知るためだ。行ってやろうじゃないの。
ローに入れてクラッチを繋ぎ、勢いつけて斜面を登りながら左へハンドルを切った。空転する後輪。リヤが流れた。思わず右へカウンターステアを当てたが、それがいけなかった。そのまま左へすってーんと転んだ。今度は小傷程度では済まなかった。クラッチレバーがくにゃりと曲がり、ハンドルも少し歪んだ。
ちょっとやり過ぎたか。やっぱりこういうところは、オフロードバイクじゃないと無理なんだな。実際にやってみてよくわかったよ。
怪我は全くなかった。教習所時代にひとつだけ教官に褒められたことがある。「転び方が巧い」ってことだ。