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 とうとう自動車学校の落ちこぼれ生徒になってしまった。あまりのできの悪さに、教官たちがあきれて、指導の匙を投げた。一本橋ができない。Uターンができない。スラロームができない。8の字が描けない。なんとかできるのはS字とクランクだけ。
 教官の中に若い女性が一人いるのだが、私に教えるときには幼児言葉を使う。「そこでアクセルを開けて」なんて言わない。「はい、ブーン。そこで、ブーン」だ。一本橋では「あ、ワニがいますよー。落ちたら食べられちゃいますよー」だって。しかし、なんだろう、遠くに目覚めるこの快感は?
 社内のハーレー乗りにそのことを話したら、「かっこ悪いやつだな」と白い目で見られた。やっぱり大型乗りはレベルが高すぎて、私にはついていけないな。そのとき「ニダボ」というバイクに乗っている若い同僚が、うつむいた私に救いの手を差し伸べてくれた。「大型もいいけど、250もいいですよ。僕の『二ダボ』にまたがってみますか?」。駐輪場に佇むその姿。なんてかっこいいんだ、「ニダボ」!
 まあ、そんなことはどうでもいいや。仕事が終わったら釣りに行こう。バイクでは負けても、釣りでは絶対に負けないさ。
 そら、ヒット! ま、こんなもんさ。あ、小さい。セイゴハンターに降格だよ。

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