あの場所は最高のポイントだと思った。そこで会社のシーバスフリークの同僚に教えてやろうと、情報交換の電話をした。驚いたことに、一昨日私が釣ったことを、彼はすでに知っていた。なんという地獄耳だ。
「あの場所の何がいいんだろうね。河川の流入? 浅い水深? イナの大群? あるいは潮位? 潮の当り方? それとも時刻?」
彼の答えは時刻だった。その根拠は、同じ日の同じ時刻にほかの場所で、先行者がヒットさせたのを彼は指をくわえて見ていたから。私は時刻ではあるまいと思った。だからこう言った。「明日休みだから、今夜は徹夜で頑張ってみるよ。あの時刻にしか釣れないのか、それとも時間をおいて次の時合いがあるのか」。彼は「お、熱心ですね」と言った。私は「探究心は大切だよ」と大見得を切った。
日没後の午後7時少し前。仕事を早く終わらせて、例のポイントに立った。私がキャストしようとすると他のアングラーが近づいてきた。そして私の間近、背後に立った。そのときには私はすでにヒットさせていた。何だよ、1投目じゃないか。やっぱりあそこにいたよ。コンディションのいい75cmだった。
針を外してリリースしている間に、さっきのアングラーがそのポイントにキャストしていた。さらに、携帯で仲間を呼んだのか、新たに人影がやってきた。若いアングラーなのか? 弱ったな。同じポイントで粘ってみて、次の時合いが来るのかどうかという検証は、あきらめなければならない。仕方がない、別の検証をしよう。少し離れたポイントでやってみて、すぐに釣れたら、最大の要因はあの場所特有の潮の当り方ではない、という結論になる。他の条件はほぼ同等だ。
しかし1時間ほどのキャストの結果、ノーヒットだった。やっぱりあそこの潮の当り方がいいのか? さっきのアングラーは釣れたのか? それとも一瞬の時合がさっきの1本で終わってしまったのか? 微妙な結果だな。
じゃ、こうしよう。午後10時に干潮となって、潮が再び満ちてきた頃合いにもう一度あそこに立ってみよう。その時刻なら、さっきのアングラーたちは引き上げているに違いない。潮位はさっきと同じ。時刻でいうなら深夜1時ごろだ。そこで釣れたら、最大要因は絶対的な時刻ではなく、あの場所の他の要因だということになる。
だけどごめん。徹夜で頑張るなんて言ったくせに、探究心は大切だなんて言ったくせに、もう根気が続かない。1本釣れたんだから、ま、いいか。そのかわり、明日の朝マズメに頑張るよ。