水平線
最初
最新
目次

 80cmぐらいの、多分マルスズキだったと思うのだが、さっさと取り込んで次の魚を狙おうとした。だから少し強引に潮溜まりへと導いたら、そこでピンと針が外れた。魚に逃げられたのならまだましだった。まずいことに、足元の潮溜まりはまだずっと向うまでつながっていて、魚はそっちへ泳ぎ去った。しかしすでに海とは遮断された潮溜まりだ。もう少し潮が引けば酸素の供給も途絶え、魚は酸欠で死んでしまう。でも今はまだ広いから魚は自由に泳ぎ回っていて、とても捕まえられない。しかたがない。干潮まで待って、潮溜まりが狭くなってから救出しようか。
 ところが後になって、ずっと潮が引いてから探したのだが、スズキの姿は消えていた。どこへ行ったんだ? カラスが食ってしまったのか? 骨も残さず? それともトビが運び去ったのか? まさかワシじゃあるまいし。では、自ら泳ぎ去ったのか? それはありうるな。そうだとすると、潮溜まりから海に通じる、海藻だらけのあの細くて長い水路を泳ぎ抜けたのだ。この潮溜まり、よくカタクチイワシが閉じ込められて酸欠で死ぬのだが、さすがスズキはイワシとは違うんだな。

水平線