水平線
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 身近にありながらまだ行ったことのなかったポイントを偵察することにした。林を抜けると視界が開けた。そこはさざ波洗う小磯だった。次に目に飛び込んできたのは、50メートルほど右、波打ち際で繰り広げられている広範囲のボイルだった。私は慌てた。たくさんの鳥が騒いでいる。カモメとウ。白いのと黒いの。
 なんてこった。カメラもタックルもクルマに置いてきてしまった。このチャンスに私は手ぶらだ。こうなっては仕方がないので、近くへ行って、せめてじっくりと観察することにした。主役の魚は、いつものイナダか? それとも最近元気のいいセイゴ? もしかしてこのところ釣れていると話に聞くサゴシ? ときどき背中で水面を盛り上げている。回遊魚系だな。そしてそれほど大きくはなさそうだ。
 このボイル、けっこう長いぞ。よし、クルマに戻ってカメラとタックルを取って来よう。私は走った。運動不足で足が重い。するとボイルも岩場を回り込んで、砂浜の駐車場方面へと移動してきた。数百メートル走って車にたどり着き、カメラを首から下げ、ロッドを手にした。そのときボイルは沖へと遠ざかっていくところだった。かろうじて短い動画を撮影できた。
 その後、再び林を抜けて、向う側の海岸で次のボイルを待った。しかし2時間たっても、2度目のボイルは現れなかった。ちっ、またやっちまった。海辺をうろつくときは常にタックルを携行するのだと、あれほど心に誓ったのに。ちょっと油断すると、すぐこれだ。
 でも、まあ、いいや。あの場所も面白そうだということがわかったから、これからちょくちょく覗いてみることにしよう。

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