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 5月10日の失敗が頭から離れなかった。あの後ずっと自分を責め続けた。だけど、どっちの後悔なのか、自分でもよくわからなかった。ブリのボイル発生から友が釣り上げるまでの一部始終を、カメラを向けていながら、レンズキャップの外し忘れで撮れていなかったことだろうか? それとも「後悔しますよ」という友の忠告を聞き入れず、そもそもロッドではなくてカメラを持って砂浜に下りたことだろうか?
 ならば、この後悔から抜け出すには、両方を一挙に満たせばいいのだ。私が自らブリを釣り上げ、その一部始終を動画に収めれば。そう思って、何度かリベンジを果たそうとしたのだが、そこへ襲いかかってきたのが海水温の低下だった。状況は徐々に悪化し、今日、ブリのボイルは完全に消えた。いや、ブリだけではない。カタクチイワシそのものが姿を消したのだ。
 カメラを虚しく回しっぱなしで、私は抜け殻のように意気消沈して海岸をさまよった。その時ふと、波の引いた砂地に何かつんと発芽したような突起があるのに気付いた。しかもその突起はすぐにずずっと砂に潜ってゆく。あれは何か生物だ。カニか? それともトビムシか?
 もう一度同じものを探した。すぐに見つかった。波が引いた後に芽を出したように尻を突き出し(あるいはあれは頭?)、その後すぐにずずっと砂に潜っていく。次の波が来る前に、そこへ走り寄って、手早くほじくり返した。貝だった。左右不等長の、小さな、いくぶん角ばった形の、二枚貝だった。
 童心に帰って(いや、いつも童心だが)、夢中で貝拾いをした。いるわ、いるわ、たくさんいた。漁業権とか面倒なことになってはいけないし、貝には猛毒があることもあるので、拾った貝はみんな海に帰した。
 あの貝は何だったんだろう。気になってしかたがなかった。帰宅後、ネットで調べた。「波の子貝」というらしい。外洋に面した砂浜に、潮が満ちるとき、波に乗ってやってくる。昔はたくさんいたから食用になったが、いかんせん大きくても2cmという小さな貝なので、食べるのはたいそう面倒だと紹介されていた。それより、味噌汁に入れるととてもいい出汁が出るらしい。食味は2説あって、淡泊説、濃厚説が見られた。期待よりは淡泊、意外に濃厚ってことなんだろう。うーむ、今度は食べてみるか。
 そんなことより、私に残された寿命はあとそう長くはないのだから、死ぬまでの間にもっともっと自然界のことを知りたいな。貝の仕草、習性、その名、そして貝だけでなく鳥や草花も。

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