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バックラッシュの悪夢

 チューニングによって2つの弱点を克服したアンバサダー2500Cに気を良くして、さっそく荒磯のヒラスズキに挑んだ。ところが私はある問題に直面し、相当のショックを受けた。バックラッシュによるキャスト切れの連発。買いだめしてあったタイドミノーを3つも失った。
 キャスト直後、ツンという引っ掛かりとともに、パチッという鋭い音を耳に残して、切れたルアーが宙を飛んでいく。うなだれてすごすごとクルマに戻ってリーダーの組み直し。そのせいでマズメ時を3回逃した。
 それはいつも1投目で起こる。リーダーを組み直した後の2投目以降は、ことさら慎重にサミングしながらやって、バックラッシュはなんとか抑えられる。しかし次の釣行で、またもや1投目にキャスト切れ。そんなパターンだった。
 なぜ? 2500Cは5500Cよりもはるかにバックラッシュしにくいリールのはずなのに。しばらく楽なレボを使ってたから、オレ、まさかサミングが下手になってる? それとも奮発して8本撚りのPEラインに替えたから? あるいは、もしかして、このロッドのせい?

原因の考察

 切れるのはいつもキャスト動作の最後、ロッドを振り抜いた直後だ。このタイミングでは逆風の影響は考えられない。まだルアーは失速するほど飛んでもいない。
 飛んでいるルアーの失速によるバックラッシュをサミングで防ぐのは、テクニックとしては初歩の部類だ。いくらなんでも私はそんなミスは犯さない。それにその時点でのバックラッシュなら、パチッと音を立てて2号のPEラインが切れることはまずない。
 では、何が起こっているのか? ヒントは次の動画だ。

 このロッドはヒラスズキに特化して自作した、軟らかなロッドだ。長さは11フィート3インチ。軟らかいことと長いこと。この2つの特性により、キャスト直後のバックラッシュが生じているに違いない。
 私が今まで作ってきたロッドは、磯で使うならこれ1本、ヒラマサもヒラスズキも同じロッドでやってやろうという意図で作ったものだった。ところが、そういうロッドは結局のところ中途半端で、ヒラマサには伸され、ヒラスズキには弾かれる。そこで両者を区分し、ヒラマサには硬めでしゃきっと張りのあるロッド、ヒラスズキには軽いルアーが正確にキャストでき、バイトをはじかないしなやかなロッドという使い分けを図ることにした。そしてまずはヒラスズキ用に、軟らかく、なおかつ長めのブランクを選んだのだ。
 その結果、鞭のようによくしなる、打ってつけのロッドに仕上がったのはよかったのだが、振り切った瞬間のロッドティップの過度のしなりがスプールの回転を不用意に上げ、その復元直後に一瞬ラインのたるみができて、ツンと引っかかるようなバックラッシュが発生するのだ。もしかしたら、4本撚りよりもしなやかと言われる8本撚りのPEラインを使ったことも、この現象を助長したかもしれない。
 このタイミングでのバックラッシュを防ぐには、サミングによるしかない。リールのブレーキをここに合わせると、そのブレーキ力は強すぎて、キャストの伸びがなくなってしまう。だからスウィング直後のサミングでバックラッシュを防ぎ、その後はサミングを緩めて飛距離を伸ばすのだ。そもそも私が煮詰めた擬似オフセットグリップは、繊細なサミングが可能となるよう、その際の手首の角度を改善するためのものだったはずだ。
 ロッドの特性に加え、最近ヒラスズキには細身で軽いミノーを使うようになっていたことも、影響しているかもしれない。ルアーが軽いので、強くサミングすると失速する。だからサミングを最低限に抑え、ぎりぎりのコントロールをしようとして、1投目に力み、失敗するのだ。
 長くてしなやかなロッド+軽いルアー+8本撚りPE=バックラッシュ。このような因果関係があるのだろうか?

レボは偉いヤツだった

 だが待てよ、と私は考えた。チューニングを終えた2500Cを実戦投入するまで、つなぎでレボ・エリートIB7を使っていたが、こんなバックラッシュはしなかったはずだ。それはいったいなぜなのか。もしかして、レボはよほど優秀なリールなのか?
 いままでレボのことを「今どきのロープロ・リール」としか認識していなかった。軽いスプールに、非シンクロナイズド・レベルワインダー。部屋の中で指で弾いて、いつまでも回り続けるスプールを眺めて愉しむにはいいリールだが、実戦での使い勝手は古いアンバサダーに劣る。そんなふうに決めつけていた。
 やはり軽いスプールは、バックラッシュを避けるうえで、多大な恩恵をもたらすのか。わずかな力でスプールの回転にブレーキを掛けることができるから、ルアーの運動エネルギーをそれほど損なわず、制御しやすいってわけだな。こうなると、今どきのロープロ・リールもばかにはできないな。
 しかし実際には、それだけではなかったのだ。いままで何の気なしに眺めていたこのリールのブレーキシステムの高度な制御に、私はやっと気づいた。

レボの遠心ブレーキ

 私が気づいたのは、レボの遠心ブレーキに小さなバネが仕込まれていることだった。このバネはどんな役割を果たすのか? そのことを考察してみて、実はレボは偉いヤツだったのだと見直したのだ。
 このレボのブレーキはIB=インフィニットブレーキと名付けられており、AbuGarcia自身によって「遠心ブレーキとマグネットブレーキの併用」と簡単に説明されている。実際、このレボにはカップの内側に、遠心ブレーキのドラムとともに、5個の磁石が配置されている。そして外側には、マグネットブレーキの強さを調節するためのダイアルがある。

レボのマグネットブレーキ

 私が今回の考察で気づいたのは、インフィニットブレーキの優秀さは、マグネットブレーキとの併用にあるのではなく、ブロックに仕込まれた小さなバネにあるのではないかということだ。
 このバネは遠心ブレーキのブロックを、一定の力で引き戻す。かたや、遠心力は回転速度の2乗に比例する。とすると、ロッドを振り抜いたときに必要とされるブレーキ力に設定しても、その後はバネの力でブレーキブロックを引き戻すことによって、ブレーキ力を弱めることができる。そのことを下のグラフで説明するとわかりやすい。

バネの効果

 遠心ブレーキが弱すぎて、ロッドを振り抜いた直後に、バックラッシュによるキャスト切れが多発するとしよう。その原因が最後のロッドのしなりにあることはわかっている。時間0がロッドのスイング直後を表している。この時点でのブレーキ力が弱すぎるのだ。この状態が青の曲線である。
 そこで、遠心ブロックを重くするか数を増やすかして、緑の曲線のようにブレーキ力を2倍にしたとしよう。そうすると、振り抜いた直後のバックラッシュを防止できる半面、その後のブレーキ力も強くなり、ルアーの飛距離の伸びを損なってしまうことになる。
 そこで、バネを用いて、遠心ブロックを一定の力で引き戻せばどうなるか。それが赤の曲線である。この赤の曲線は、緑の曲線をいくらか下方にスライドしただけのものである。それだけで、ロッドを振り抜いた直後は青の曲線よりもブレーキ力が強く働いてバックラッシュを防ぎつつ、その後は青の曲線よりもブレーキ力が弱まって飛距離が伸びるというふうに、理想的なブレーキ力を実現している。
 なるほどね。レボのIBはこんなにも偉いヤツだったのか。とは言っても、このメカニズムがAbuGarcia独自のものかどうか、私は知らない。昔のリョービのリールにあったような記憶が・・・。

2500Cとの決別

 レボがこんなにも偉いヤツだったということにはある種の感動を覚えはしたが、私は何といってもシンクロナイズド・レベルワインダーの2500Cが好きだ。意地になって、どうあっても2500Cのブレーキを煮詰めてやろうと考えた。
 ブレーキブロック大を2個では、ブレーキが強すぎて、バックラッシュは防げるものの、飛距離が全く伸びない。そこから1個減らしたのが今の状態だ。しかしそれではブレーキ力が弱すぎて、少し気を抜けばバックラッシュする。ならば、そこへブレーキブロック小を1個足せばどうか?
 夕マズメを狙うつもりだったが、ブレーキのテストのために早めに出発し、日のあるうちに海岸に着いた。小さなケースに、ブレーキブロックの小を1個、さらにそれを削って極小にしたものを1個、入れてきた。まずは小から試した。もともと大が1個ついていたから、それを1とすれば、小を足して1.5ぐらいだ。キャストしてみると、ずいぶんましになった。これでしばらく様子を見ることにしよう。
 日が沈み、薄暗くなった。波の状態がよい。今日は1発来るかもしれないな。ドラグのセッティングを確認した。ラインを引っ張って、ドラグを滑らせる。そのとき、ガリッという感触とともに、スプールがカラカラと空転し始めた。

ピニオンギア嵌合部の破損

 あれだけ苦労して自作したステンレス製のピニオンギア嵌合部が、いとも簡単にぽろりと外れたのだ。でも、まあ、こうなるかもしれないという予感はあったのだが。
 これはあきらめるしかない。素人によるリールのチューニングは、努力が実ることもあれば、水泡に帰すこともあるのだ。さよなら、2500C。おまえとはここでお別れだ。

レボのレベルワインダーのセミ・シンクロ化

 さあ、こうなっては、私のヒラスズキへのチャレンジの相棒は、レボ・エリートIB7となるほかない。

レボ・エリートIB7

 前述のとおり、レボは優れたブレーキシステムを備えた偉いヤツだ。軽くてコンパクトでパーミングもしやすく、使っていてとても快適である。おまけに、旧型アンバサダーにあったドラグクリッカーも復活されていて、まったくごきげんだ。しかし、ひとつだけ我慢ならない欠点がある。それはレベルワインダーがノン・シンクロだということだ。
 ロープロリールはどれもキャスト時にはレベルワインダーは働かない。それがキャスト時にも左右に往復するシンクロナイズド・レベルワインダーとの違いだ。しかし、そこから先、さらに2タイプに分かれる。ドラグが滑った時にもレベルワインダーが働かないノン・シンクロ・レベルワインダーと、ドラグが滑った時にはラインに追従して左右に動くセミ・シンクロ・レベルワインダーだ。
 レボはノン・シンクロのタイプだ。ドラグが滑った時にはラインの位置とレベルワインダーの位置がずれて、ラインが斜めに出てゆき、ライン同士の摩擦で抵抗が増す。ドラグ力が一定ではないのだ。
 その点、セミ・シンクロのレベルワインダーを備えたリールなら、キャスト後は常にラインの位置とレベルワインダーの位置は一致している。したがって、ドラグが滑った時も、ドラグ力は一定で、ラインはまっすぐスムーズに出てゆく。ただし、魚がルアーの着水点を超えて走らない限り、ではあるのだが。
 下の動画は、ほかのページで使ったものだが、再度掲載しておこう。セミ・シンクロタイプのアルファスと、ノン・シンクロタイプのレボの比較である。

 そこで私は考えた。ノン・シンクロタイプのレボのレベルワインダーを、せめてセミ・シンクロタイプに改造することはできないだろうか?
 かつて、そんなことは素人には無理だと述べた。そんな大掛かりなことをするぐらいなら、2500Cをチューニングする方がまだ楽だと言った。さらにはノン・シンクロのレボとはここでお別れだとまで言い切った。しかし2500Cのチューニングが結局失敗だったとわかった今、レボのセミ・シンクロ化にチャレンジするほかあるまい。レボが思ったより偉いヤツだったと知った以上、敬意を払って取り組む価値があるのではないか?

<つづく>

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